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ブレンド日記

世の中の出来事・木馬での出来事・映画の感想・本の感想・観るスポーツ等々ブレンドして書いてみました。

(38)「悪の教典」貴志祐介著(文芸春秋)・・9/16日読了

2010年09月19日 | 本の事
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 読み始めは、「お!学園ものか、好きなのよね。面白そう・・・」それにこの主人公の蓮実聖司教諭はステキ、カッコいい。
それもそのはず、彼は京大法学部を中退してアメリカに留学、MBAを取得してアメリカの大手投資銀行に勤務していたという経歴の持ち主。
その上で、生徒の悩みを解決し、学校のため、可愛い二年四組の生徒たちのため一生懸命になっている英語教師なのだ。
こんな先生に教えてもらえたら、私だってもう少し英語が理解できていたかも、と思ったりして。
おまけに教師の仕事は授業だけではないので、イジメ、万引き、カンニング、セクハラ教諭、モンスターペアレント、連日何かしら学園内で生じる問題も、蓮実先生は、明確な頭脳で理路整然と解決策を打ち立て、実行に移していく。流石!実にかっこよかった。ここまでは・・・
ところが次第に 何だか不安になる。完ぺきだった蓮実教諭の人格に疑問を抱くようになる。
え?!!なにこれ?
苛めの誘導、女生徒との不適切な関係、個人情報の悪用、偽装事故、放火殺人、そして人殺し!!
それらの行動を、三文オペラのテーマ曲”モリタート”を口笛で吹きながら淡々とこなしていくというか、殺していくのだ。
それもそのはず、蓮実先生の正体は人としての感情を持たない、サイコ人間だったのだ。

私的にはこういうサイコサスペンスは読まないというか嫌いなのだけど、読み始めたから仕方ない。

でも蓮実という人間の描き方が、少し変わっているなぁと思う。それというのも、初めのうちは理想の教師、そのうち化けの皮が剥げてきて、生徒を殺した後で『ここまで生徒のことを考えてやれる俺ってつくづく教師に向いてるなあ』とか平気で言う。彼の中に、『生徒を殺す自分』と『生徒のことを思っている自分』の間に齟齬がない、と言うか、その齟齬を感じる能力も欠如しているのだと思う。
精神的に欠陥というか、精神異常者だから、もしかして無実になったらと思わせるところがあるが、たとえ物語とはいえ本当に怖い。

それにしても何人殺したんだろう。

とても怖い物語でした。

(36)「ひそやかな花園」角田光代著(毎日新聞社)・・9/9読了

2010年09月12日 | 本の事
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 とても面白かった。
この本は一言で言うと、非配偶者間人工授精(AID)でこの世に生を成した子どもたちと、その家族の物語なのだ。

毎年夏休みになると、ある山荘で数日間を家族と一緒に過ごした7人の子供たち。この子供たちが主役、
しかし、1990年、親たちによって例年の山荘で過ごすキャンプは突然中止されてしまう。わけもわからずそれぞれが、別天地の楽しい甘やかな記憶を共有したまま、七人は引き離されて、おのおのの家族の状況を背負いながら成長していくのだ。

平凡な主婦、エリートサラリーマン、会社社長、派遣社員、イラストレーター、歌手、ニート、社会的に成功した者もいれば、家庭がうまくいかないもの、しかしそれぞれは何か、どこか違うという思いを抱えている。
そして彼らは考え始める。あの夏の日、花園に隠された秘密とは一体何だったのか・・・を。
そして彼らは知る。この世は理不尽で或ること。そして知らなければよかったという事実であふれているということを・・・

この小説の中で作者が一番言いたかったこと。
それは、医師が言う「私は人生が平等だとは思っていない、しかし生まれることと死ぬことだけは平等だ。それが平等であることに私は人生の意義を感じる。」という言葉。
なんかすごく考えさせられた。
そしてもう一つ 運命を超えた宿命というものを。

重いテーマなれど、中々面白かったです。

晴れ 雲りのち雨 33℃

(35)風にそよぐ墓標・・門田隆将著(集英社)・・9/5日読了

2010年09月09日 | 本の事
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「最近本がないね」とトンボに言ったら、「今 面白いのがないんよ。」といっていたが、ここにきてドンドン本が届く。
いつものように「早く読め、早く読め」攻勢が始まった。
その上、「上下物は半分ずつお金を出し合いこしようよ。」という。
「お金出してまで読むのなら、自分の好みの本を買うからいい。読んであげて感想を言ってあげてるのに。」といいました。
ホント金持っているのにケチな男。
「お金持って死ねやぁせんのよ。」と言ったら「俺の金は一銭もない、皆女房の物。それによくよく考えたらあんたが一番ケチじゃないかね。」だそうです。
そうかなぁ…ま、いいや。

というわけで、まず一冊目。『風にそよぐ墓標』です。
本の嫌いな方はごめんなさいね。当分ブックレビューが続きそうです。

 『父と息子の日航機墜落事故』サブタイトルからもわかるように、1985年8月12日に起きた日航機事故の遺児たち(今やすっかり大人、親の世代になっている)に取材したドキュメンタリー。
あの墜落から25年が経った。
この衝撃的な事故後、この事故原因や状況の追求等を視点に書かれた本は多いけど、究極の悲しみの底のおとされた息子たちが、絶望の淵から這い上がり、亡き父に語りかけながら 苦悩と逆境を乗り越えた四世紀半を 今度は自分たちが父親なりその視点で書かれた本は初めてだとか。

著者は日航機事故当時は二十代で「週刊新潮」記者として自己取材に没頭していたという。その後結婚して息子を持ち、あの事故に対する見方も変わり、被害者の男たちは今こそ悲劇の本質を伝え、それをどう克服したかを語らなければとの思いから あえて男の遺児たちを中心に取材をしたとか書いてあった。

私はあの事故のことをはっきりと覚えている。
あの事故の時 九死に一生を乗り越え無事だった川上慶子さん、島根県の大社町出身で、ご両親と夏休み北海道旅行に行き、帰りに事故にあったのだ。部活で家族旅行に行けなかったお兄さんと二人きりになってしまった。当時随分と涙を誘った話題だったから。

この時ヘリコプターで救出されてる写真が冒頭のプロローグに出ていた。
川上慶子さんを抱えて救出した自衛隊の佐間優一さん(現在61歳)の話によると、「あの時必死に歯を食いしばっていたが、それは涙をこらえる為だった。」という。
「地上から体が浮いたとき、ミルクの匂いというか、母乳のにおいがしたんですよ。その時急になぜか涙がこみ上げてきましてね、子供って赤ちゃんの時に母乳というか、そういう匂いがするじゃないですか。それを感じたんです。」
作間さんは、当時小学三年生と三歳の子の父親だった。
色々と思うところがあったのでしょうね。

他にも子もたちを頼むと奥さんに飛行機が落ちていく中で遺書を描いた父親も。

このドキュメンタリーを読んで思ったこと。
それは、人間って、どんな形であれ愛する人の存在のありかを求めずにいられないものだなぁ、どんなに損壊されていようと、その人を思う心のよりどころをとなるものを見つけずにいられないものなんだなぁ、そのためにはたとえ15歳であっても 思いもよらぬ力がわいてくるものなのだということ。

一読の価値ありです。

晴れ 30℃

(34)「病葉流れて」白川道著(幻冬舎)・・・8/20読了

2010年08月29日 | 本の事
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 今日はまたブックレビューです。
本嫌いの方はごめんなさい。早く書かないと忘れてしまうので・・・

 背表紙あらすじ:十八の春、大学に入った梨田雅之にとってすべてのものが未知だった。酒場も、そして女も。だが、運命的に出逢った麻雀に、梨田はその若さを激しくぶつける。次第に彼は博打こそ自分の天運と対峙するものと考え、この道で生きていくことを決意する。そして果てしなき放蕩の日々が始まった…。無頼派作家が描く自叙伝的ギャンブル小説の傑作!

と書いてあるけど、私はギャンブルが好きなわけではなくて、以前古本屋で見つけていつか読んでみようと思い買った本。

何か終わり方がイマイチだと思って調べてみたら、この物語には続編、続々編があるらしい。物語が続くのなら、まぁ、こんな終わり方でも仕方が無いのかなと思いもしたが、やはり一冊の本として売り出すからにはキチンと完結すべきではないのかな。
でも相変わらずこの作者は男、いや人間の生き方が実にすばらしい哲学がある。
理想でもいい、こんな筋の通った生き方に憧れる。

「博打打ちには二通りのタイプがいる。巧いヤツと強いヤツ。巧いヤツなんてのはゴマンといる。でもそんなやつらはちっとも怖くない。本当に怖いのは強いタイプのヤツなんだ。強さというのはどんどん伸びる。今から巧さなんてのを覚えちゃだめだ。巧さは強さを弱めてしまう。行く着くところまで博打の強さを伸ばしてやるんだ。強さの限界がきたら、そこで初めて巧さを覚えればいい。強さの限界、つまりそれが自分の博打打ちとしての限界になる。負けない博打をしたいんだったら、今からでも遅くない。博打からは一切手を引いたほうがいい。人生の時間は限られているし、もっと有効な時間の使い方がある。それとも君は、巧く生きる人生にでも興味があるのかい?」

入寮の日に出会った哲学的麻雀師・永田の言葉。
この永田がカッコいい。
というわけで、今度古本屋に行ったら、続編を探して読んでみよう。

それにしても本文とは関係ないのですが、暑いですね。

晴れ 34℃

(33)「老猿」藤田宣永著(講談社)を読む(8/13日読了)

2010年08月22日 | 本の事
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               高村光雲の『老猿』像

直木賞作家であり、小説家小池真理子さんの旦那様。ということは知っていたが、読むのは初めて。

でも 面白かった。テンポよく、サクサクと読むことができた。

元ホテルマンの私は、父の遺産である軽井沢の別荘に移り住んだ。向かいには、高村光雲の彫刻作品から私が“老猿”と名付けた、変わった老人が住んでいた。もう一軒、向かいの豪華な別荘の持ち主が、ある日、中国人女・春恋を連れてやってきた。そして、奇妙な人間関係が絡み合い、冬から春へと季節が移っていく―。 (BOOKデーターベースより)

主人公中里は60を前にして長年勤めたホテルをリストラされた。
時を同じくして、初めての浮気が妻にばれて離婚されてしまう。
中里はローンを完済したマンションを妻に譲り、父が残した軽井沢の寂れた別荘に移り住むことにした。
近所には中里が“老猿”と名づけた変わり者の老人が住んでいた。
そして、もう1軒に資産家が愛人らしい中国人をつれてきた。
その夜、資産家の妻が別荘を訪れ、愛人の春恋が中里の家に逃げ込んできた・・・
中里は思いがけずに老猿と春恋に深くかかわっていくことに・・・・・・

愛人関係や自殺など、物語は息つく暇もなく快調に展開するので、読む者を飽きさせない。
そして情に流されない大人のハイセンスな恋情が綴られるので、ごく自然に気持ちよく読み進むことができ、最後は?・・・ 

というわけで、リタイア中年男性の恋愛&冒険小説としても面白く、3日で読んでしまいました。

(32)「夜行観覧車」湊かなえ著(双葉社)・・・8/8読了

2010年08月10日 | 本の事
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 この作者も初めての出会い。
本屋大賞を受賞した「告白」の原作者だし 期待して読み始めたのだけど…

読み終えて返却した時トンボが「面白かったかね。」と聞いたけど、「まだ読んでないのをとやかく言うと怒るでしょう。」と答えたら、「お気に召さなかったんだな。」と邪推していましたが・・・
何と言ったらいいのか、ま、こんなものでしょう。期待しすぎたので。でも最後の終わり方が、なんとなく家族の在り方を考えさせられてしまった。

<ストーリー>
父親が被害者で母親が加害者─。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と、向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。(「BOOK」データベースより)

坂の上にある高級住宅地「ひばりヶ丘」。
そんな「ひばりヶ丘」の模範的な住人、絵に描いたように理想的なエリート一家「高橋家」で起こった殺人事件。
事件現場となった「高橋家」の向かいは、目印にまでされてしまうほど「ひばりヶ丘」に似つかわしくない小さな家、中学受験に失敗し、すっかり卑屈になってしまった一人娘が母親相手に苛立ちをぶつける声が四六時中近所に響きわたる「遠藤家」。
そして両家の様子をたえず伺っている、「ひばりヶ丘」の古くからの住人、遠藤家の隣家、「小島家」の主婦さと子。
この三家族を中心に物語は進んでいく。

深夜に起きた殺人事件。今まで平和だった高級住宅街は騒然となる。その時、被害者であり加害者の家族である子どもたちは何を思うのか、そしてこの街の住民たちがとった行動とは。それぞれの視点から事件の真相が明かされていくのだけど。
「家族間の残酷な事件」というのは、マスメディアにとって、「おいしいネタ」として消費されてしまうし、どんな家族にだって、多かれ少なかれ「問題」はあるもの。

この物語が今一つ私の心に響かない理由としては、当然、物語に出てくる家族は、どの家族も、家族なんて呼べるものではなく、崩壊真っ只中。
そこから家族の再生を描いたり、修復不可能になるまで家族の崩壊が書かれてあれば、楽しめたんでしょうが、どうにも中途半端な結末。
少なくとも家族が再生に向かう希望の一筋でも書かれてあれば良かったのだが、それもなし、結局、高橋家の子供たちはそういう風に話を持って行ったのか。

いや家族の幸せなんて、平平凡凡でいい。
そんなこと思った物語でした。

雲り時々うす晴れ 32℃

(31)「化石の愛」池永陽著(光文社)を読む・・7/26読了

2010年08月01日 | 本の事
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 トンボにしては珍しく恋愛小説。
本を読み終え返却するときに「淡い恋にあこがれてるん?」と聞いたら「俺は濃密な恋に憧れてる。」との答え。これをうだつの上がらぬ初老男のないものねだりと言わずして、なにをやいわん。

それはさておき。
京都の大原にある桂徳院というお寺にある、埋め仏にまつわる話なのだけど、京都の実在のお寺なのだろうか?もしあるなら行って見たい。

 さて物語は・・
傷心の尚子は、東京を後にして学生時代を過ごした京都に舞い戻る。亡くなった男・井串との過去を引きずりながらも、かつての大学時代の恋人と再会し、普通の生活を取り戻したように思えたのだが…。井串と知り合うきっかけになった寺の石仏をめぐり、豆腐料理屋を営む謎の外国人・ボビーや寺の主・寿桂など、尚子を取り巻く人々の秘めた思いが京の町に交錯する、人生の儚さを丹念に描いた物語。(「BOOK」データベースより)

親子ほど年の違う 愛する画家の井串と心中したつもりが、井串が処方した薬が、尚子だけ致死量ではなく生き残ってしまった。すべてをやり直すため学生時代を過ごした京都へやってきた彼女は、彼と出会うきっかけとなった絵、大原にある石仏のある寺にやってきた。

その出会いとは、尚子がふと立ちよった東京のある画廊で、京都のこの3体の埋め仏のある絵に見入ってしまい、毎日通うことに。
そしてこの絵を描いた井串と同棲を始めることになるのだ。

尚子には 顔だけが出て埋められた3体の仏の表情をどうしても読み取ることが出来ず、この仏の絵を描けないでいた。

京都では元恋人の 今道 そしてデザイナーの仕事をする上での広告担当になった細谷。
そして 豆腐屋のボビー。
彼らと 話し合いながら石仏の表情を探っていく。

かれらもまた それぞれが秘めた思いを胸に どうにもならがないもどかしさとともに生きていた。

この寺の尼さんの秘密を知り愕然とするが、輪廻とでも言うのでしょう。
そのことによって ふっきれた尚子は石仏の顔を描くことができた・・・

この世は楽しいことばかりじゃない。
辛くて苦しいことのほうが多い。
だけど 生きていかなければならないのだ。

大人の哀切な恋愛小説。
贅沢をいえば少し、薄っぺらかな?

(30)「終わらざる夏」浅田次郎著(集英社)・・7/22読了

2010年07月25日 | 本の事
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上下二冊のずっしりとした本。
本の重さではなくて、密度の高い物語自体の内容の重さなのだ。
素晴らしい本に出会えた喜び、いつものように、トンボさんに見せてもらった本です。

今年は、日本が無条件降伏をして太平洋戦争が終結してから65年目に当たる。
我々団塊の世代は、戦争を知らない。運が良ければこのまま生涯戦争を知らずに済むという、文字通り有難い世代なのだ。
しかし 我々は決してこの日(8月15日)を忘れてはいけない。ということを痛切に感じる本だ。

作者の浅田次郎は毎日聞でこの本についてこう語っていた。
『戦後65年、帝国陸軍は悪という象徴的イメージでとらえられがち。しかし本当に兵隊は赤紙で引っ張られた庶民です。そういう軍隊のとらえ方が忘れられているんじゃないか。書きたかったのは戦争に巻き込まれた人間の小説です。』そして『僕は高度成長期に育った世代だからこそ、自分の知らない一番つらい時代を書くのは義務だと思う』とも・・・

1945年・8月15日。ポツダム宣言を受け入れた日本が負けて太平洋戦争は終わった。しかし、その3日後に、はるか北の、北海道よりもっと先の千島列島の果てで、アメリカではない敵・・・ソ連軍から侵攻を受ける形でもうひとつの戦争が始まった・・・。
というところから物語は始まるのだけど・・
私は何度も言うように 歴史に疎く、知らないことばかり、北方領土はこのようにしてソ連領になったのですよね。

で、物語は、東京の出版社で翻訳書の編集長をしている片岡は45歳。妻と息子とともに、江戸川橋のおしゃれなアパートメントに住み、いずれは家族そろってニューヨークに住むことを夢見ている。
そんな片岡に、ある日赤紙が届く。制限年齢のぎりぎりの今になって。誰がどう考えても、勝ち目のない戦争が終わろうとしている、ぎりぎりの時期になって。
そして、彼が向かった北千島の占守島には、開戦以来一度も戦ったことのない、まさに精鋭といっていい戦車部隊が手付かずで残っていたのだった。
そして、片岡と一緒に召集されたのは、伝説の英雄だが右手の指を無くし銃も撃てない富永熊男、軍医の教育を受けていない帝大医学部在学中の菊池忠彦。なぜ、この3人が招集されなければならなかったのか。

赤紙を受け取る者の悲しみと、赤紙を届ける側の痛み。夫の無事を祈り千人針に想いを託すしかない片岡の妻の久子の思い。疎開先で父の応召の知らせを聞き、たまらず東京へ向かう尋常小学校4年生の息子譲。出荷されるはずのない缶詰工場で働く10代の女子挺身隊員たち・・・。
召集された者たちを支える家族をはじめ、それぞれの立場のそれぞれの苦悩。国民の誰一人として自由に生きることを許されなかった戦争という時代を浅田ワールドはリアリティに書いている。
第二次世界大戦という戦争の悲劇は、「総力戦」となったことだ。既に敗戦を感じていたこのころの軍隊の正体は、軍人ではない一般市民だ。そうした個人が、赤紙一枚でたった1週間で軍隊に組み込まれていく過程。そして残された家族も、国民全てが個人の自由もすべて束縛され、戦力として組み込まれていくという状況。「総力戦」という名のもとに、どんな矛盾も押し通されてしまう状況下で、力強く生きようとする人々。
そしてこの『終わらざる夏』に登場する人たちの中で、誰ひとりとして戦争がいいことだと思っている人はいないのだ。

長い物語ながらこの小説の中で一番浅田次郎が言いたかったことは、片岡の息子譲と一緒に信州に疎開していた少女の静代が東京に逃げ出す時、助けてくれたやくざ者の言葉に表わされていたように思う。
『戦争に勝ったも負けたもない、そんなのはお国の理屈だ。人間には生き死にがあるだけだ。アメ公だってそれは同じだ、勝ったところで親兄弟がくたばったんじゃ うれしくもなんともあるめぇ。負けたところで悔しいはずはない。戦争に勝ちも負けもあるか、戦争をする奴は皆負けだ。大人たちは勝手に戦争をしちまったが、このざまをよく覚えておいて、お前らは二度と戦争をするんじゃねぇ、一生戦争をしないで畳の上で死ねるならその時が勝ちだ。その時本物の万歳をしろ!』

今まで、歴史の表舞台にあがったことのない、知られざる戦争。終戦後に開戦した、唯一の戦争と言われる占守島の闘い。

まさに今 旬の小説、重いテーマながら浅田次郎独特の人としての優しさと、力強さがたっぷりのこの本、
是非にも読んでください。

晴れ 32℃

(29)「悪貨」島田雅彦著(講談社)・・7/8日読了

2010年07月11日 | 本の事
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 ここんところ、トンボに貸してもらう本にはずれがない。
面白いのだ。

いやぁ、この本も面白くて、やめられなくなった。店でお客さんが切れた時、家に帰って寝るまで、とにかく本が見たくて見たくて、辞められなくなった。お陰で読む姿勢が悪かったのか、首をたがうし、夏風邪もひいてしまった。

トンボに「面白くて、読み終えるのが惜しい。」と言ったら、「俺はあんたに喜んでもらうのが一番うれしい。そう言ってもらうと、見せてあげたかいがある。まだドンドン本が来るけぇ、寝とるひまないよ。」と嬉しそうに言う。
単純な男です。

で、物語は・・
ある日、ホームレスの足元に百万円が落ちている。しかしその金は実に巧妙にできた偽札だった。フクロウの目なる異名を持つ鑑定のプロも驚く精度のそれが偽札だと発覚したのは、100枚すべてにわざと同じ記号番号が刷られていたからだ。
そこから物語は始まり、その偽札は盗まれたり、流通したり、様々な人の手に渡ってしまう。その一方美人警察官のエリカは、闇の金を扱う宝石店通商「銭洗い弁天」に捜査官として潜入し店員になり済まし捜査することになる。
捜査を進めていくうち、多額の金を所有するビジネスマン、野々村と出会う。果たしてこの男は何者なのか、そしてどういう方法で多額の金を手に入れたのか、エリカと野々村はこの先どうなるのか。ううーん悔しいけど、書きたいけど、これ以上書けません、ネタばれになりまた顰蹙を買いますから。
でもちょっとだけ書けば、エリカは野々村が好きになるのです。

でもこの本の本当の主人公はエリカでも 野々村でもない 偽札だと思う。
最近 電子書籍なる物が話題を呼んでいるが、この本を読むと紙のお金ももしかして滅びて行く運命なのか そんな思いにさせられる。

暇がある方は是非にも・・
最後がちょっと息切れかなと思えるけど、でもとても面白かったです。

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雨 28℃

(28)「民王」池井戸潤著(ポプラ社)・・7/2日読了

2010年07月04日 | 本の事
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 同じ作者の鉄の骨もとても面白かったけど、この本も楽しめた。
「旬の本は旬の間に売るんだけぇね、早く読みんさい。」といっていつものようにトンボが貸してくれた本だけど、サクサクと2日で読んでしまった。

突然辞任した前首相から政権を引き継いだ武藤秦山が総理大臣に就任した矢先、大学生の息子翔と中身が入れ替わってしまうのだ。(新種のテロ?により・・)
パロディでありコメディであり・・

それが、首相が漢字読めないのも、大臣がもうろう会見してしまうのも、実はその裏側には!想像を絶するその真実があったのだ。
これってもしかして、あの方たちの事?
いやぁーー。ちよっと待ってよ、なんなの、パクリなの、この筋書きは?と思って読みすすんで行くと・・・

訳のわからないトンデモない部分と、そうでない現実の間をギリギリ進む。バカバカしいなあと思っていたにも関わらず、段々とハマってしまった。面白い。
実際に起きた政治事件が先にあって、それをふまえて創ったフィクション、ファンタジー、パロディと言っても構わないと思う。
こういうのをとっさに小説の題材にすぐさま取り入れるところというか、発想の転換が出来るところが凄いなぁと思う。
勿論、普通首相と息子が入れ替わってうまくいくわけがないのに、これがうまくいくところが小説なのだが、期待との若干のずれが心地いい。というか、面白い。

そして話が進むにつれて、すれっからしの政治家の秦山が、実は心の奥には熱い純粋な思いを持っていたり、おバカな大学生かと思っていた息子の翔が、自分の将来や社会の事を真剣に考えて就職活動をしたりと、読み進むにつれて登場人物のまた違った面が見えてくるのだ。

最後までユーモアと風刺で、楽しく読みながらも、(国会の予算委員会のところなど)考えさせられるそんな内容でした。

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