現在、Version 5のドラフトがレビュー中のLunaNet Interoperability Specification、略してLNIS。
年明けにはリリース版が出そうなので、いまのうちに予習しておく。
LunaNetは、将来の月面、月近傍、月-地球間などの通信とナビゲーションの国際的なフレームワークの名称。
NASAが推進するLunar Communications Relay and Navigation System (LCRNS)に加えて、
ESAのMoonlight、JAXAのLNSS(Lunar Navigation Satellite System)が参加している。
これらの相互運用性を確保する仕様がLNISとなる。
LNISの測位サービスは、LANS(Lunar Augmented Navigation System)と呼ばれている。
このLANSは、GNSSのようなbroadcastの測位サービス以外に、特定のユーザに対するP2Pによる測位も提供する。
GNSSのようなbroadcastの測位信号は、AFS(Augmented Forward Signal)と呼ばれ、その仕様は
LunaNet Signal-In-Space Recommended Standard - Augmented Forward Signalで定義されている。
AFSの周波数は、2483.5-2500.0MHzのSバンドでほぼ決まりらしい。中心周波数は2492.028MHz。
測位信号は、IチャンネルとQチャンネルの両方で放送され、Qチャンネルは航法メッセージを含まないpilot信号となる。
変調方式はBPSKで、Iチャンネルは1.023Mcps、Qチャンネルは5.115Mcpsのチップレート。拡散符号ははまだ未定義。
Iチャンネルの航法メッセージのシンボルレートは500sps、Qチャンネルのpilot信号には20ビットのsecondary codeが重畳される。
このあたりはまだTBCなので、リリース版で変わってくるかも。
航法メッセージのフレーム長は12秒(6000シンボル)。各サブフレームは1/2 LDPCで符号化され、さらにinterleavingが掛けられる。
メッセージIDやコンテンツは決まっているけれど、具体的な中身は未定義。
これは、月の時刻系や座標系が決まらないと、なかなか具体化できないかも。
総じてL1CやL5のような今風の測位信号のアーキテクチャでありながら、変調方式はBPSKとシンプル。
まだTBCが多いけれど、AFSのシミュレータや受信機は、いまあるGPS信号シミュレータやPocketSDRをベースに開発できそう。
P.S. InsideGNSSの記事に、まだLSISのドラフトでは定義されていない拡散コードがなぜか掲載されている。
Iチャンネルの拡散符号は、ドラフトと同じ1.023Mcpsだけれども、2msのコード長で2046チップのGold符号らしい。
Qチャンネルの拡散符号は、L1Cpの拡散符号をそのまま流用するようだ。
コード長は2msで10230 チップのため、チップレートはドラフトと同じ5.115Mcpsになる。
Qチャンネルのpilot信号のoverlayコードは、secondaryだけではなく、さらにtertiary codeが重畳される。
Iチャンネルのdataフレーム長である12秒に同期できるけれど、実用上役に立つのかやや疑問。
そもそも、pilot信号って、GNSS受信機でもどの程度有効に活用されているのだろう?
いろいろと便利なのは理屈では分かるけれど、複雑な信号処理を追加してまでの利点があるのかな。
とりあえず、ユーザの要求に対して受信機側の自由度が高いことは良いことなので、Qチャンネルの受信機能も実装はする。