おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「清佑、ただいま在庄」 岩井三四二

2011年03月07日 | あ行の作家
「清佑、ただいま在庄」 岩井三四二著 集英社文庫 2011/03/04読了 
  
今年の最初の一冊として読んだ「おくうたま」(光文社・岩井三四二著・2011/1/1/読了http://blog.goo.ne.jp/orionisorionis/e/103c13ccdb3b5ae500cb618088b131d5)があまりにも面白かったので、同じ著者の作品にトライ。これも、なかなかに味わい深い作品でした。

16世紀初頭、京都の寺が所有する荘園を舞台に、代官として派遣された若い僧侶・清佑(せいゆう)と、村に住む人々の暮らしぶり、生き様を描いたオムニバス形式の短編集。

まじめな学級委員タイプの清佑。庶民の苦しい生活への思いが至らず、「規則は必ず守りましょう」と原理原則を振りかざし、当初は村人の反発に遇い苦労する。でも、悪代官というわけでは、決してない。前任者からは「村人を自分の愛する子どもと同じように大切にし、慈しみなさい」と引き継ぎを受けていたが、そういう心境になれない自分を不甲斐なく思ったりする。そんなところも、いかにも優等生。

 清佑には表面的に上手く立ち回る器用さはないが、でも、根は「いい人」なのだ。原理原則重視は貫くけれど、村人の苦しい暮らしぶりを目の当たりにすると、それを無視することはできない。耳を傾け、何か解決方法はないかと誠実に対応しようとする。そして、次第に、村人との信頼関係を築いていく様子には、素直に、応援したくなる。

 そして、この物語のもう一人の主人公が、おきぬという14歳の少女。幼い頃に母を失い、父親は盗みの疑いで打ち首にされた。村の湯屋の火の番をしながら、幼い弟・妹の面倒を見ている。清佑は、おきぬを不憫に思い、何かと気に掛け、目を掛けるのだが…清佑の心配をよそに、おきぬがみるみるうちに強く、逞しく、したたかに成長していくのがなんともいい。

 堅物の清佑だけでなく、清佑とは対照的にしなやかで柔軟なおきぬにも光を当てていることが、物語を一段と魅力的なものにしています。
  
有名な合戦や、歴史上の人物ではなく、ごくごく普通の庶民の暮らしを描いた時代小説というと、江戸時代以降のものが多いように思います。なので、室町時代の庶民を描く時代小説というのは、とっても斬新です。そもそも、「荘園」なんて言葉は、「日本史の教科書に出てくる単語以上の存在ではなかったのですが、そこに、ちゃんと人間の息づかいが聞こえてくる暮らしがあったということが新鮮でした。



2 コメント

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文楽好きでいらっしゃるということで (竹本豊竹)
2011-03-09 19:06:35
通りすがりにご紹介させて下さい。
人間国宝の技に迫る 映画「文楽 冥途の飛脚」30年経て上映!
東京都写真美術館で上映中です。
玉男の忠兵衛、簑助の梅川に、先代勘十郎。
住大夫、綱大夫に、越路大夫は封印切り!なんと音楽監修は武満徹。
http://www.bunraku-movie.com
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そうかあ? (古河しゅんたろう)
2011-04-12 23:14:45
時代考証を念入りにした 『 月ノ浦惣庄公事置書 』 や 『 城は踊る 』、『 一手千両 』、『 大明国へ参りまする 』 などの岩井三四二氏の作品はかなり読んできましたが、 『 …在庄 』 は 『 理屈が通らねえ 』 と同様、物語としての奥行きとひねり、途上人物のペーソスにイマイチ感がありましたが。。。あくまで私の感想でして、失礼しました。
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