おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「あなたがピアノを続けるべき11の理由」 飯田有抄

2012年01月13日 | あ行の作家

「あなたがピアノを続けるべき11の理由」 飯田有抄構成・解説 ヤマハミュージックメディア 12/01/12読了 

 

 私は幼稚園に1年しか行っていない。少子化という言葉が存在せず、町のフツーの幼稚園が定員オーバーになっていた時代。入園するはずの年に、母親が見事、くじ引きでハズレを引いてしまった。近所の友だちがみんな幼稚園に通っているのに、私だけ行くところがないことを不憫に思って、親はかなり無理をしてピアノを購入し、教室に通わせてくれたらしい。

 

 でも、正直なところ、小さな頃は「ピアノのおけいこ」を楽しいと思ったことはなかった。そもそも、根気が無いので「毎日、継続的に」というのは苦手だし、テクニック向上のための練習曲でハイになれるほどの感性はなかった。

 

 自分から進んでピアノを練習するようになったのは、中学1年生の時にショパンの「革命」を聴いてから。激しく繊細な旋律に鳥肌が立つくらい感動して、猛烈に「この曲が弾きたい」と思った。ピアノの先生に頼み込んで、テキストにショパンのエチュードを加えてもらい、半年近くかかって「革命」を弾けるようになった。今でも、特別に大好きな曲の1つ。

 

 「あなたがピアノを続けるべき11の理由」を縷々説明されたところで、ピアノを続けたくない人の気持ちがどうにかなるわけではないような気がする。人を音楽に向かわせる力があるのは、結局のところ、音楽だけなのだと思う。「続けるべき理由」があっても、「続けたい」人にしか音楽は続けられない。

 

 ちなみに、この本はプロのピアニストや、趣味としてピアノを楽しんでいる哲学者、落語家、科学者など11人へのインタビューをもとに構成されているのだが、これがもう、なんとも単調きわまりない。話の内容はそれぞれ違うのに、文章のトーンが同じなので似たりよったりの話に思えてしまう。

 

 かつて愛読していた土屋先生の文春の連載コラムは思わず吹き出してしまうほど面白かった。ピアニストの秦万里子さんは何気ない日常をステキな音楽にしてしまう天才。この人たちがピアノについて語ったら、面白くないはずがないだろうに、なぜか、全然、面白みがない。落語家の柳家花緑は、さぞやテンポ良くインタビューに答えたであろうに、残念ながら活字からは落語家らしい調子の良さは伝わってこなかった。「ピアノを続ける理由」になるかどうかはともかくとして、ご本人たちに執筆を依頼した方がグッと個性的で楽しい読み物になったのではないか―と思うと、残念。

 

 以上、ピアノを続けなかったことを深く後悔している負け犬の遠吠えでした。

 



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