おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ラジ&ピース」 絲山秋子

2011年12月07日 | あ行の作家

「ラジ&ピース」 絲山秋子著 講談社文庫 

 

 やっぱり私は絲山秋子が好きだ。ぶっきらぼうで、衝動的で、ブッとび過ぎて理解不能なところもあるけれど、でも、彼女の作品にどうしようもない吸引力を感じる。

 

 私にとって絲山秋子の魅力は、爆笑問題の太田光、フィギュアスケートのミキティーと似ている。精神的に不安定で、ちょっと危なっかしい。たくさんの友達に囲まれても、多くのファンから愛されても、孤独だ(というのは、単に受け取る側の主観で、ご本人たちはいたって安定しているのかもしれません)。そして、必死に安定しようともがく姿が、その才能を際立たせているように思える。

 

「ラジ&ピース」の主人公・野枝も孤独だ。容姿と性格に対する無用な劣等感を抱え、心の奥底から周囲と打ち解けあうことができない。学校でも、家でも、職場でも、そして東京という町そのものに対しても、自分の周りに壁をめぐらし心を閉ざしてきた。ラジオのパーソナリティとして仕事をしている時―それが、唯一、野枝が心を解き放てる時間だという。

 

そんな野枝がFM東北から、Jyoushu-FMに転職し、平日午後の番組を担当しながら、少しずつ前橋の町に馴染み、心の壁を低くしていく様子を描いた物語。東京でも、仙台でもなく、群馬に居場所を見つけるってあたりに、著者の「群馬愛」が溢れていていいなぁ。

 

そんな誰からも心を閉ざしているような人が地方局とはいえ、ラジオパーソナリティとして10年ものキャリアを重ねることができるのだろうか…とか、あまりにも唐突に野枝の心の壁を乗り越えてくる人が二人も現れるというあたりが、若干、ストーリーとして不自然な感じがしないでもない。でも、そこにこそ、不安定ゆえに安定を求める、自分で壁を作っておきながら孤独に負けそうになる人の気持ちがこもっているのかもしれない。

 

野枝がJyoushu-FMに転職して気付いた「ラジオの魅力」がなんとも言えずいい。きっと、絲山秋子もラジオ派なのだろうな…。「テレビ<ラジオ」の人にはジワリ沁みるものがあると思う。