おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「赤めだか」 立川談春

2008年05月17日 | た行の作家
「赤めだか」 立川談春 扶桑社 (08/05/17読了)

 立川談志率いる立川一門・談春の初エッセイだそうな。前半では何度もクスッと笑わされて、後半で泣かされました。最後の方は、もう、涙ボロボロ。ティッシュなくして読めませんでした。かくいう私、談志ファンでも、談春ファンでもありません。というか、落語聞いたことがありません。正確に言えば、子どもの頃、父親が見ていた「笑点」で流れていたなぁ…という程度。子どもにとっての笑点は大喜利がギリギリの我慢の範囲内で、前半の漫談や落語なんてほとんど意味不明なものだったので、まさに、落語を聞いたわけではなく、あくまで、落語が流れていた-という印象しかないのです。

 という落語門外漢にも、十分に楽しめるエッセイです。談春はチケットを売り出せば瞬間蒸発の人気落語家だそうですが…天は二物を与えたもうたようです。文筆家としての才能もタダモノとは思えません。もちろん、落語家さんだから、ちょっと焦らす、肩透かしを食らわせたあとで、思い切りツボに落とすなんていう技術はお手の物なのかもしれませんが、それを活字に落とし込むということはそんなに簡単なことではないと思います。でも、とにかく、上手い、味わいのある文章でした。そのうえ、師匠の談志を初めとして、はちゃめちゃな兄弟子や仲間たちのエピソードが常軌を逸しているわけで、もう、面白いわけがない。ましてや、落語ファン(というか、立川一門ファン?)には、堪らないのではないでしょうか。

 このエッセイが人の気持ちを揺さぶるのは、談春の談志に対する深い深い愛ゆえなんだと思います。それは、落語門外漢にも十分に伝わってくるし、ここまで、惚れる相手がいるというのは、うらやましくもあります。特に、最後の「特別篇その2 誰も知らない小さんと談志」は、ホントに、素晴らしい。親子の愛にとどまらず、勘当した祖父にまで遡って三代を貫く堅い絆。粋でカッコイイなぁと思わずにはいられません。せっかく未知の世界の落語に興味を持ったところで…しかし、談春チケットは簡単には手に入らない。どうも、深入りする機会は逸しそうです。