おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ウランバーナの森」 奥田英朗

2008年05月25日 | あ行の作家
「ウランバーナの森」 奥田英朗著 講談社文庫 (08/05/25読了)

 初めて「空中ブランコ」を読んだ時、この人はタダモノじゃないとは思いました。しかし、まさかここまで、おかしな人とは思いませんでした。だいたい、小説デビュー作で「ジョン・レノンが便秘に苦しむ話」-なんて、ぶっ飛びすぎです。万が一、そんなバカな話を思いついてしまったとしても、普通の良識があれば、思いとどまるでしょう。それを、やってのけるところが奥田英朗の偉大なるところ? でも、きっと、担当編集者も度量の広い立派な方だったんだと思います。

 もちろん、小説の中には、一度たりとも「レノン」の文字は登場しません。ただの「ジョン」です。しかし、ジョンはリバプールに生まれた音楽界の大スターで、でも、グループは既に解散してしまいプー太郎。日本人ケイコ(ってヨーコ?)と再婚し、息子のジュニア(ジュリアのことですよね?)との3人の暮らし。どう考えても、ジョン・レノンです。そのジョンが避暑地の軽井沢で便秘に苦しむ。なんとか問題を解決しようと、ありとあらゆることを試してみるものの、全く、事態は好転せず。でも、ジョンのあまりの必死さに、ちょっと応援しそうになり、「おいおい、便秘のジョン・レノンに肩入れしてどうる?」と自分に突っ込みを入れてしまいました。

 しかし、便秘の話がこのストーリーの全てではありません。著者自身が「文庫版のあとがき」に「心に傷を持ったある中年男の再生の物語として読んでいただければ幸い」と記しているように、実は、結構、重いテーマに取り組んでいるような、いないような…。確かに、重いテーマに取り組んでいるのですが、でも、やっぱりぶっ飛んでいるのです。ラリっているのか、情緒不安定なのか、とにかく、普通でない状態で書いているとしか思えません。もしかして、この本を一番最初に読んでいたら、二冊目読まなかったかも…。つまらないわけではなくて、ラリッている感じがちょっと恐い。

これを著すことで奥田英朗氏は、心の傷を克服して、「空中ブランコ」や「マドンナ」などの珠玉の傑作にたどりついたのでしょうか。


「警察庁から来た男」 佐々木譲

2008年05月25日 | さ行の作家
「警察庁から来た男」 佐々木譲著 ハルキ文庫(08/05/25読了)

 めちゃめちゃ楽しい~!!! ラストのシーンなんて、あんまり気持ちよすぎて、一人、うふふふと笑ってしまいました。やはり、今、警察小説を書かせたら佐々木譲と今野敏が双璧ですね。

 北海道警を舞台にした「笑う警官」の続編。「笑う警官」を読んでいなくても、これはこれで楽しめるように配慮されているとは思いますが…でも、やっぱり、「笑う警官」を読んでからの方が2倍も3倍も楽しめるハズです。「笑う警官」で道警の不正・腐敗を暴いた佐伯、津久井らのメンバーは、「身内を売った」咎で、それぞれに懲罰的な人事待遇を受けて、陽の当たらない職務をこなすしかない日々。そこに、警察庁から若いキャリアが監察官として乗り込んでくるのです。警察庁が、「道警の処理がおかしい」とにらんだ事件が少しずつ、佐伯、津久井ら当時のメンバーを引き寄せ、再結集させるのです。

 謎解き部分も、もちろん、緻密に作りこまれています。事件のキーマンとなる人物については、ストーリーの途中でさんざんヒントを与えられ、そのたびに、「もしかして、あいつ?」とページを遡ったりするのですが、なかなか、確信は得られず。で、種明かしされた瞬間「あっ、やられた!」と思うのでした。読者のハメ方が上手いっ!そして、佐伯や津久井が、無駄に暑苦しい熱血漢として描かれていなくて、淡々としているけれど、真っ直ぐでカッコいいんですよ。

 後半、「これ、絶対、映画にしようよ~!」と思いながら読んでいたのですが、解説氏によると、第一弾の「笑う警官」は既に、映画化プロジェクト進行中らしい。「警察庁から来た男」を映画化する時は、察庁キャリアの藤川は及川ミッチーがいいな。

 そして、改めて、思いましたが…第一弾のタイトルはやっぱり「うたう警官」に戻すべきじゃないでしょう。同書は、ハードカバーの時は「うたう警官」として出版され、文庫化の際に「わかりづらいから」という理由で「笑う警官」に改題したそうです。しかし、やっぱり、このストーリーは誇りある“うたう警官”の物語であると思いました。