温泉クンの旅日記

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釧路、幣舞橋界隈(2)

2020-05-10 | ぶらり・フォト・エッセイ
  <釧路、幣舞橋界隈(2)>

 フィッシャマンズワーフから釧路川沿いをぶらぶら歩いているとき、水森かおりの歌碑「釧路湿原」と美川憲一の「釧路の夜」の歌碑を次々とみつけた。

 

 水森かおりとは浅からぬ因縁がある。いや因縁は言い過ぎか。わたしの旅と不思議な<ゆかり>があるといったほうが近いだろう。
 旅先の能登の輪島で「輪島朝市(2008年4月発売)」を大音量で流している宣伝カーに出会ったのを皮切りに、松島、宮島などで遭遇しているのである。歌碑にいたっては「ご当地ソングの女王」と呼ばれるだけに全国あちこちの名所で、である。だから勝手にすごく親しみを感じているのだ。

 フロントに鍵を預け、釧路の夜の街へ出た。たとえ今夜深酒しても、明日の朝はまあまあいい温泉でシャキッと目覚められる。宿泊する「ホテルパコ釧路」の屋上に広い天然温泉(塩化物泉)の露天風呂があるのをさきほど昼寝する前に検証済みだ。

 ホテルがある幣舞橋界隈は繁華街なので、酒場も密集している。
 地酒地魚の提灯を掲げた「くし炉 あぶり家」という店先で足を止め、ここなら分相応だなと逡巡せずに決めて暖簾を潜った。

 

 案内されたのは二階の静かな席で、先客は中年グループが一組だった。
 メニューにはキンキもあったが、一夜干しの開きでも四千円はするのでパスだ。まずは、いつものように芋焼酎の水割り、それに蟹クリームコロッケでスタートだ。

 

 蟹コロは思った通り、酒場の並クラスの味で、レストランや洋食屋のほうに軍配があがる。

 

 イカのゴロ焼がきたところで、吟醸酒「吟香造り ざんぷう」、純米吟醸「きたしずく」、「福司 本醸造辛口」の利き酒三点セットに切りかえた。

 

 無敵のつまみ、イカのゴロ焼には酒こそ似合う。
 ところで酒の燗だが、日向燗(ひなた燗)30度、人肌燗35度、ぬる燗40度、上燗45度、熱燗50度、飛切燗55~60度と温度で定義されている。ちなみに常温は20度前後、涼冷え15度、花冷え10度、雪冷え5度である。
 北海道では人肌燗を「だら燗」と呼ぶそうで、この店では「福司」のだら燗がお勧めだった。そいつと、蟹シューマイを追加する。

 

「えーッ、ン十年も前に別れた女の連絡先を突きとめたのかよ!?」
 でかい声が耳に飛び込んできた。ちょっと気になる。どうやら先客は、大病から無事生還した友人を囲んでの快気祝いの宴のようだ。仕切られた個室のため聞こえてくるのは断片的であるが耳をすませてしまう。
 聞こえてくる会話の断片をわたしの想像で補うと、次のようなものだった。

<ああ、このまま入った病院で一巻の終わりになったら、どうしょうもない悔いが残ると思ってね。あちこち電話を掛けまくってさ。必死よ。電話の向こうから彼女の声が聞こえたときにはガラにもなく胸がときめいてしまった。
 名乗って、あれ、どうしたの、って言われただけで不覚にも涙が滲んできてさ。声っちゅうものは歳とらねえんだね。ぶわぁーって思い出が頭ん中いっぱいにあふれてさ。まいった。なにを言おうとしてたのかも忘れちゃった、オレってだらしがないよな・・・。>

 (ミュージック、スタート!
  ♪ 女心も知らないで 貴方がにくい 貴方がにくい ・・・『釧路の夜』のサビ)

(いやいや、その情熱こそが身体の生命力を根こそぎ掻き集めて病魔退散、回復につながったと思うよ)
 退院おめでとう。だら燗で、静かに乾杯する。

 

 調子にのって飲みすぎた。ふらつく足で、闇に浮かぶ灯みたいなラーメン屋をみつけた。創業50年とは老舗である。

 

 釧路ラーメンって何ラーメンが名物だったっけ。答えは思い浮かばず、いつも醤油と味噌ばかりだからと塩ラーメンを頼んだ。

 

「まずはスープをひと口・・・ゲッ!」
 遠い昔、溺れて海水をガブリと呑んだ子どものころを思いだしてしまう。高血圧に高濃度塩分は猛毒だ。スープ飲みほしたら脳溢血間違いなし。大将、事故に見せかけて殺める仕掛け人か・・・なんて。

 

 なぜか麺は非常に美味しい。やはり味噌か醤油にすべきだったかと激しく後悔する。できるだけ獰猛なスープが絡まないように食べきった。

 忘れられない釧路の夜の、しょっぱい締めであった。




   →「釧路、幣舞橋界隈(1)」の記事はこちら



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