温泉クンの旅日記

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南紀白浜温泉、美し宿(2)

2022-03-13 | 温泉エッセイ
  <南紀白浜温泉、美し宿(2)>

 この宿の娘さんだろうか、若い女性によって頼んだ焼酎が運ばれてくる。置いて去っていくまでとくにコメントがないので、きっとこれがわたしの夕食の献立なのであろう。

 

 それにしても、呑み屋で目の前にこんな料理が並ぶと、いったい会計はいくらになるのかわたしは気になって酔えないだろうな。
 一日八組限定という小体な、言っちゃえば民宿クラスの宿とは思えない、意外なほど品数多い夕食である。
 早めの昼メシを軽めのしらす丼にしといて正解だった。しかしそれでも多い。まあ、悩まずいつもどおりに好きなモノから食べていくか。

 

「うっぷっ!」
 芋焼酎の水割りを口に含んだ瞬間、あまりの濃さに吹きそうになる。これ、水入ってないンじゃないのか。別に濃いのは構わないが、こういうのはお代りしたときに急に薄くなってしまわないか心配だ。

 

 あとで調べたらこの献立は、全部で九品の「紀州鯛のお鍋&熊野の牛の水晶焼き懐石」とあった。
 食前酒が紀州南高梅の梅酒、前菜は三種盛、先付にはとろ湯葉、刺身の盛り合わせ、熊野牛と海老と太刀魚の水晶焼き、そして紀州鯛を使った鍋。それに、香の物とコシヒカリのご飯、季節の地元和歌山の果物のデザートだ。

 
 
 食べ終わるころだったが、食事をすませた客が一組玄関に出てきて見送られていた。どうやら食事だけの常連の地元客だったようである。

 

 頑張って食べたのだが、鍋に全部入れてしまってから殆ど残すなんてえのは失礼だろうと、恐縮ながら紀州鯛の鍋だけは丸残しさせてもらった。わたしは鍋料理はもっぱら人に食べてもらって、後の雑炊とかうどんとかを食べるのが好みである。
 宿賃を弾むと、鯛が名物の高級魚クエになるようだが、いずれにしても呑み助のわたしには鍋は無用のようだ。

 朝、外の空気が冷えているので露天はやめて、広いほうの内風呂に入った。
 湯気があまり出ていないが、慎重に掛け湯をすると適温であった。直前に先客があったのかもしれない。

 

 湯の中で沈めた身体をゆっくりと伸ばす。熱めのとてもいい湯だ。出立の朝は、ぬるめより熱めに限る。

 日本には「日本三景」とか「三名園」とか「三大夜景」とか「三ナントカ」というのが多いが、ここ南紀白浜温泉も、かつては熱海温泉、別府温泉と並んで「日本三大温泉」と言われていたそうだ。
 また万葉集にも「牟婁温湯(むろのゆ)」「紀温湯(きのゆ)」の名で登場し、斉明天皇や中大兄皇子も入湯したといわれるほど温泉として非常に歴史が古く、有馬温泉、道後温泉と並び「日本三古湯」のひとつに数えられた、そんなありがたい湯なのだ。

(たしか朝食は八時っていってたな・・・)
 八時とはずいぶん遅めの時間だが、まさか朝食も力入れている献立じゃあるまいな。
 うひゃー! 

 

 その<まさか>だった。
 夕食と同じロビーに設えた席に着いて、驚く。恐ろしく手が込んだ彩り華やかな朝食・・・である。これじゃあ、手間が相当掛かって八時になるはずだ。
 玉子焼きは出来たての熱々だ。まいったというか嬉しい。なんか、しらすだけでもご飯一杯いけるじゃんか。
 目移りしてしょうがないが、やはり、ここも好きなモン順でいくしかないか。

 

 だし巻き卵、たらこ、かまぼこ、しらす、生野菜、梅鶏ハム、さんま、納豆、冷ややっことずらりと並び、鍋に入った味噌汁、コシヒカリのご飯、香の物と、梅干しだ。そして果物はバナナとグレープフルーツ。
 好きなモン順と決めても厳選されたおかずに狂うほど迷いながら軽く三杯も食べてしまった。

 唯一の弱点であった、トイレが部屋になかったのがこの宿の“玉に瑕(きず)”だが、それも宿泊客が少なかったのでまったく問題なかった。
 こうして白浜との遺恨試合に、べらぼうに安い宿賃で「美し宿」に泊まれるに至って、わたしは完全勝利を飾ったのである。


    注:「美し(うまし、いし)」は、見事、申し分ない、素晴らしいという意


  →「南紀白浜温泉、美し宿(1)」の記事はこちら


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