<読んだ本 2014年8月>
職場の事務所移転が今月中旬にあり、7月あたりから慌ただしくて旅に出かけられていない。常連客には「あれっ、最近だいぶネタに窮しているな」とバレているかもしれない。
暑い日が続くと食欲が落ちて、ついつい昼飯に蕎麦とか冷し中華みたいな冷たいものや簡単なカレーとか炒飯が続いてしまう。

これではいけない、たまにはガッチリと栄養をつけよう。
適当な理由をくっつけて午後半休を取り、御徒町に焼肉を食べにいった。
多少待たされるがひとり客も歓迎してくれる店で、気持ちよく四人掛けのテーブルを提供してくれるので繁盛しているのだ。

ランチビールと、カルビ定食を頼み久しぶりに元気を取り戻す。
しかし、この後すぐの八月上旬に起こした「ぐでぐで千鳥足に段差は禁物」事件のとき、右頬と両手、両腕、両肩と頸椎、ついでに顎を打って前歯もダメージを受け、いまや豆腐とか柔らかい食べ物しか食べられなくなってしまうのである。
口に入れて最初に「パキッ」と噛み分けるのが、前歯の列の根元が歪んでいてできないのだ。

居酒屋でも当分、煮込みと豆腐くらいしか食べられない。まあ、身から出た錆、というしかない。 まずは身体の痛みがなくなればいずれ歯も安定することだろう。九月に効き目のありそうな温泉で湯治ができればいいのだが・・・。
さて、今月に読んだ本ですが、今月も先月に引き続きまあまあの7冊、累計で58冊だ。
1. ○利休の茶杓 とびきり屋見立て帖 山本兼一 文芸春秋
2.○軍師の境遇 松本清張 角川文庫
3. ○頼みある仲の酒宴かな 縮尻鏡三郎 佐藤雅美 文芸春秋
4. ○あるじは信長 岩井三四二 PHP文芸文庫
5. ○八州狩り 夏目影二郎始末旅(一) 佐伯泰英 光文社文庫
6. ○代官狩り 夏目影二郎始末旅(二) 佐伯泰英 光文社文庫
7. ◎満月の道 流転の海 第七部 宮本輝 新潮社
今月は長くなってしまうので、流転の海シリーズの最新作「満月の道」にしぼって書く。
主人公である熊吾の息子伸仁の友人のトクちゃんは、中卒で自動車修理工場に勤めて毎月の給料の半分を能登に住む両親に仕送りしていた。そのトクちゃんがひょんなことから螺鈿細工を知り、嵌まってしまう。仕送りを待ちわびる両親を説得して、十年間は無給の、厳しい螺鈿細工工芸師への道を選び弟子入りしてしまう。

師匠は、まずは行儀を教え、それと仕事場の掃除。これがどれほど大事な修行かを五年でわからなかったら見込みはないと言いきる過酷なものだ。
『自分の鶏すき鍋が運ばれてくると、熊吾は焼酎の水割りを飲みながら、トクちゃんが守屋忠臣の弟子となるために
京都へ引っ越して行ったときのことを神田に話して聞かせ、「行」というものがいかに大切かを
教わったのは十二歳のころだと言った。
「ぎょう・・・? 行うの行ですか?」
と神田は箸を置いて訊いた。
「うん、その行じゃ。ひとつのことを実際にやりつづける。ひたすら、やりつづける。そういう意味では、
わしは家庭の主婦というのはえらいと思うのお。毎日毎日、洗濯をする、掃除をする、家族のご飯を炊き、
おかずを作る。結婚して、歳をとって体が動けんようになるまで、営々とつづけちょる」
熊吾は、手を叩いて仲居を呼び、三杯目の焼酎を頼んでから話を続けた。
「大工は家を建てるのが行。医者は病人を治すのが行。運転手は車を安全に運転するのが行。百姓は
うまい米を作るのが行。どんなもんでも、行が伴って万般に通じる何かをそれぞれが会得していく。
勉学もそうじゃ。わしは十二、三のころに、叔父からそう教えてもろうた。しばらくのあいだは覚えちょって、
あれをしたい、これをしたいと思うと、『まず行じゃ、行動じゃ』と自分に言い聞かせて、具体的に
それに向かって実際に体を動かすことをこころがけたが、いつのまにか忘れっしもうて、茫々五十数年が過ぎた。
つまり、わしは自分の才の及ぶ範囲内で努力したに過ぎん。単調でつらい行から逃げて、
たかが知れちょる小才で生きてきて六十五になった。トクちゃんを守屋さんの家に送った帰り道に、
叔父の教えを思い出したが、もう手遅れじゃのお」
熊吾は、自分が伝えようとしているものを神田が理解できないでいることを感じた。だが、トクちゃんが
これから毎日仕事場の掃除をつづけることが、なぜ優れた螺鈿工芸師となるための「行」となるのかを
うまく言葉にすることはできなかった。』
流転の海のシリーズは二、三年に一冊ペースで刊行されている。わたしの場合にはその間に百五十冊以上のほかの本が入ってしまうので、登場人物がごちゃごちゃになってしまう。
そろそろ、一巻から読み直してみるのもいいかな。
→「ぐでぐで千鳥足に段差は禁物」の記事はこちら
→「読んだ本 2014年7月」の記事はこちら
職場の事務所移転が今月中旬にあり、7月あたりから慌ただしくて旅に出かけられていない。常連客には「あれっ、最近だいぶネタに窮しているな」とバレているかもしれない。
暑い日が続くと食欲が落ちて、ついつい昼飯に蕎麦とか冷し中華みたいな冷たいものや簡単なカレーとか炒飯が続いてしまう。

これではいけない、たまにはガッチリと栄養をつけよう。
適当な理由をくっつけて午後半休を取り、御徒町に焼肉を食べにいった。
多少待たされるがひとり客も歓迎してくれる店で、気持ちよく四人掛けのテーブルを提供してくれるので繁盛しているのだ。

ランチビールと、カルビ定食を頼み久しぶりに元気を取り戻す。
しかし、この後すぐの八月上旬に起こした「ぐでぐで千鳥足に段差は禁物」事件のとき、右頬と両手、両腕、両肩と頸椎、ついでに顎を打って前歯もダメージを受け、いまや豆腐とか柔らかい食べ物しか食べられなくなってしまうのである。
口に入れて最初に「パキッ」と噛み分けるのが、前歯の列の根元が歪んでいてできないのだ。

居酒屋でも当分、煮込みと豆腐くらいしか食べられない。まあ、身から出た錆、というしかない。 まずは身体の痛みがなくなればいずれ歯も安定することだろう。九月に効き目のありそうな温泉で湯治ができればいいのだが・・・。
さて、今月に読んだ本ですが、今月も先月に引き続きまあまあの7冊、累計で58冊だ。
1. ○利休の茶杓 とびきり屋見立て帖 山本兼一 文芸春秋
2.○軍師の境遇 松本清張 角川文庫
3. ○頼みある仲の酒宴かな 縮尻鏡三郎 佐藤雅美 文芸春秋
4. ○あるじは信長 岩井三四二 PHP文芸文庫
5. ○八州狩り 夏目影二郎始末旅(一) 佐伯泰英 光文社文庫
6. ○代官狩り 夏目影二郎始末旅(二) 佐伯泰英 光文社文庫
7. ◎満月の道 流転の海 第七部 宮本輝 新潮社
今月は長くなってしまうので、流転の海シリーズの最新作「満月の道」にしぼって書く。
主人公である熊吾の息子伸仁の友人のトクちゃんは、中卒で自動車修理工場に勤めて毎月の給料の半分を能登に住む両親に仕送りしていた。そのトクちゃんがひょんなことから螺鈿細工を知り、嵌まってしまう。仕送りを待ちわびる両親を説得して、十年間は無給の、厳しい螺鈿細工工芸師への道を選び弟子入りしてしまう。

師匠は、まずは行儀を教え、それと仕事場の掃除。これがどれほど大事な修行かを五年でわからなかったら見込みはないと言いきる過酷なものだ。
『自分の鶏すき鍋が運ばれてくると、熊吾は焼酎の水割りを飲みながら、トクちゃんが守屋忠臣の弟子となるために
京都へ引っ越して行ったときのことを神田に話して聞かせ、「行」というものがいかに大切かを
教わったのは十二歳のころだと言った。
「ぎょう・・・? 行うの行ですか?」
と神田は箸を置いて訊いた。
「うん、その行じゃ。ひとつのことを実際にやりつづける。ひたすら、やりつづける。そういう意味では、
わしは家庭の主婦というのはえらいと思うのお。毎日毎日、洗濯をする、掃除をする、家族のご飯を炊き、
おかずを作る。結婚して、歳をとって体が動けんようになるまで、営々とつづけちょる」
熊吾は、手を叩いて仲居を呼び、三杯目の焼酎を頼んでから話を続けた。
「大工は家を建てるのが行。医者は病人を治すのが行。運転手は車を安全に運転するのが行。百姓は
うまい米を作るのが行。どんなもんでも、行が伴って万般に通じる何かをそれぞれが会得していく。
勉学もそうじゃ。わしは十二、三のころに、叔父からそう教えてもろうた。しばらくのあいだは覚えちょって、
あれをしたい、これをしたいと思うと、『まず行じゃ、行動じゃ』と自分に言い聞かせて、具体的に
それに向かって実際に体を動かすことをこころがけたが、いつのまにか忘れっしもうて、茫々五十数年が過ぎた。
つまり、わしは自分の才の及ぶ範囲内で努力したに過ぎん。単調でつらい行から逃げて、
たかが知れちょる小才で生きてきて六十五になった。トクちゃんを守屋さんの家に送った帰り道に、
叔父の教えを思い出したが、もう手遅れじゃのお」
熊吾は、自分が伝えようとしているものを神田が理解できないでいることを感じた。だが、トクちゃんが
これから毎日仕事場の掃除をつづけることが、なぜ優れた螺鈿工芸師となるための「行」となるのかを
うまく言葉にすることはできなかった。』
流転の海のシリーズは二、三年に一冊ペースで刊行されている。わたしの場合にはその間に百五十冊以上のほかの本が入ってしまうので、登場人物がごちゃごちゃになってしまう。
そろそろ、一巻から読み直してみるのもいいかな。
→「ぐでぐで千鳥足に段差は禁物」の記事はこちら
→「読んだ本 2014年7月」の記事はこちら
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