風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

「必殺」と被差別民

2017-04-15 13:44:09 | 時代劇





必殺シリーズは、池波正太郎原作による『仕掛人 藤枝梅安』を原作とした1972年制作の時代劇、『必殺仕掛人』を嚆矢とします。正確には第2作、『必殺仕置人』よりシリーズがスタートしたと捉えるべきでしょうが、煩雑ですので、『仕掛人』からでいいでしょう。


どんな作品があったか、ざっと並べてみますと、

●必殺仕掛人
●必殺仕置人
●助け人走る
●暗闇仕留人
●必殺必中仕事屋稼業
●必殺仕置屋稼業
●必殺仕業人
●必殺からくり人
●必殺からくり人 血風編
●新・必殺仕置人
●新・必殺からくり人
●江戸プロフェッショナル 必殺商売人
●必殺からくり人 富嶽百景殺し旅
●翔べ!必殺裏殺し
●必殺仕事人
●必殺仕舞人
●新・必殺仕事人
●新・必殺仕舞人
●必殺仕事人Ⅲ
●必殺渡し人
●必殺仕事人Ⅳ
●必殺仕切人
●必殺仕事人Ⅴ
●必殺橋掛人
●必殺仕事人Ⅴ激闘編
●必殺まっしぐら!
●必殺仕事人Ⅴ旋風編
●必殺仕事人Ⅴ風雲竜虎編
●必殺剣劇人

87年の剣劇人まで15年間続いたシリーズはここで一旦終了。その後は年一回のスペシャル版が製作され続け、91年に『必殺仕事人 激突!』として再びシリーズが復活。その後2000年代に至ってジャニーズのメンバー主体によるシリーズが製作されておりますが、この辺りになってきますともう、往年の必殺の面白さは微塵もなく、本来の必殺とは似て非なるもの、似非物だと個人的には思っております。


往年の必殺、特に70年代の必殺には、内容的に重々しく、当時のテレビシリーズとしてはかなりギリギリ、つまり今のテレビでは不可能なくらいに陰惨、悲惨で残酷な話が多い。70年代にはそういう時代劇が多かったように思いますね、時代劇というかたちを通して、当時の世相への批判精神に溢れつつ、エンタテインメントとしても面白いものを作ろうという意欲に溢れていました。

この頃の時代劇は、面白かったですねえ。



ところで、「必殺」の登場人物には、髷を結っていない人物が多く登場するのには、お気づきでしたでしょうか?他の時代劇と比べましても異常なくらいに多い。

何故だろう?これは私の個人的な考えに過ぎませんが、おそらくこれは、「被差別民」の暗喩ではないかと。

、などと呼ばれた江戸の頃の被差別民は、髷を結うことを禁じられていたんです。だからざんばら髪か坊主頭にするしかなかった。


必殺は必ずしも時代考証が正確だったわけではありません。かなり現代劇に寄った内容だったといってよく、だから髪型も結構いい加減と言えばいい加減であったことは確かです。でもだからこそ、そこにちょっとした意味合いを密かに入れ込むことが可能だったのではないでしょうか。


第1作目『必殺仕掛人』の主人公、藤枝梅安(緒形拳)は針医師、漢方医です。当時の漢方医は頭を剃り上げるのが御定法でしたから、これはこれでいいんです。しかし2作目の『必殺仕置人』に登場する、棺桶の錠(沖雅也)は棺桶を作ることを生業としています。当時遺体処理を行うのは、などの被差別民の職掌とされており、棺桶作りは極めて近いところにいるといってよく、しかも錠の髪型はざんばら髪。

私はここに社会の底辺で抑圧された人びとの象徴を見るんです。その象徴が、抑圧された人びとの怒り、恨みを代行する。

そのような意味が暗に込められていた、と、私には思えてなりません。


『必殺必中仕事屋稼業』の登場人物、知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)は、蕎麦屋なのになぜか散切り頭。一応設定としては、博打から足を洗おうとして出家した時の名残だとされていますが、これもなにやら意味深なものを感じさせますね。


『必殺仕事人』の飾り職人の秀(三田村邦彦)も髷を結っていませんね。まあ、これに関しては、被差別民云々というよりも、二枚目で熱血な秀のキャラを際立たせる趣向の方が強かったと思われ、必殺らしい時代考証を無視してキャラを優先させた代表的な例でしょう。



その他、『必殺仕業人』や『必殺渡し人』に出演した渡辺篤史さんは、どちらの作品でも坊主頭でしたし、『新・必殺仕置人』『必殺商売人』『翔べ!必殺裏殺し』に出演した火野正平さんの役どころは、定職がよくわからないフリーターみたいな人物として描かれ、やはりざんばら髪。

同じく『必殺商売人』の新次(梅宮辰夫)も、髪結いなのになぜか本人は坊主頭でした。よくわかりませんね、この辺は(笑)




『必殺仕業人』の赤井剣之介(中村敦夫)は、某藩に仕える侍でしたが、人妻と駆け落ちして脱藩し江戸へ逃れ、大道芸人となって寺の門前で剣技を披露し、日銭を稼いでいます。

大道芸人は「乞胸(ごうむね)」と呼ばれ、その身分はでした。赤井剣之介は侍からに身を落とし、生活のために金づくで人を殺す。

ここに必殺の、一つの世界観が伺えます。




このように、必殺には髷を結っていない人物が実に多い。やはりこれは、金づくで人を殺すという反社会的な行為に、社会の底辺で抑圧された人びとの鬱屈や恨み辛みの代行者としてのある意味「資格」を与える意味合いがあったのかもしれない。

もちろんそれは、それほど強い意味合いを持たせたものではなく、あくまでも「仄めかし」程度です。テレビ向けのエンタテインメント時代劇であるという一線は、ギリギリ越えてはいません。


70年代の必殺は、こうしたバランス感覚が絶妙でした。だから、好きなんだなあ。



こういう「裏読み」も、時代劇の楽しみ方の一つです。なかなか一興でしょ?(笑)





『必殺仕置人』より、棺桶の錠(沖雅也)





『必殺必中仕事屋稼業』より、右が知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)、左は仕事屋仲間の政吉(林隆三)





『必殺仕事人』より、飾り職人の秀(三田村邦彦)

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (たま♪)
2017-04-15 16:52:48
必殺シリーズってこんなにも種類があるのですねえ。知らんかった。
うちの夫様も、兄者と同じく、ジャニーズシリーズになってからはブツブツ文句ばっかり言っています。これはあかん、と。

私は実は「必殺仕事人」とは何なのかしらないまま30代になりました。
夫様に「生まれ変わったら何になりたい?」という質問をした時に「必殺仕事人」だと言われて、そんな番組あったけど、どんなんだっけ?と思って観たのが初めてでした。時代劇好きの友人には、「生まれ変わったら必殺仕事人」と言った夫の話は、爆笑されたエピソードですが^^;。。。

私は一応性別が女性なので、恨みを晴らすため、とは言え、人殺しがテーマなドラマはちょっと怖いのですよね。
夫様は、戦争もののゲームとか銃にも興味がある人で。夫様を含め、必殺仕事人好きな人を見てると、
必殺仕事人って、男性の中の暴力欲望を正当化した上での発散する要素を持つドラマだなあ、といった印象が強くって^^;
「虐げられた人の恨みを晴らしてるんですよ」って言い訳してるように見えちゃうんですよね。
そうは言っても、そういうところで発散してくれて、現実的には優しい生き方ができるならば、良い発散方法だとも思っています。
返信する
Unknown (薫風亭奥大道)
2017-04-15 18:18:38
たま♪さん、池波正太郎が書いた『仕掛人 藤枝梅安』では、相手がいかに悪人とはいえ、金を貰って人を殺すという行為を必ずしも正当化してはおらず、そうした矛盾を突いてくるような話も多いです。『鬼平犯科帳』が取り締まる側の覚悟の物語だとするなら、『仕掛人 藤枝梅安』は取り締まられる側の悲哀の話でもあるんです。でもテレビシリーズにはそういう要素は殆どなくて、やはり視聴者のストレス発散的な部分で留めているといっていいでしょう。そのくらいで留めて置いたからこそ、未だに人気の絶えない超ロングラン・シリーズになっているのでしょうね。
返信する
Unknown (たま♪)
2017-04-15 19:56:40
なるほど、そーなのですかー。
夫様は兄者と多分同年代なので、仕掛人も見てたか聞いてみます^0^/
ナウシカも漫画では、人を殺すことで生き延びている矛盾に向き合う姿が見受けられるのですが、映画では完全に違う人格でしたねー。でも、だからヒットしたのだと思うので、テレビシリーズではそういった要素がなくなったのも、兄者がおっしゃるとおり、ロングランのための必須要素だったのかなーと思います☆
返信する
Unknown (アンジェラマオ)
2018-02-23 22:38:44
どうもはじめまして、必殺ですが、
最初の仕掛人(ほぼ原作)では元締めはヤクザの親分ですが、シリーズが進むとヤクザより更に裏の人間というイメージの描写になります。
江戸時代はそういう人々はヤクザにもなれませんでした。しかし浅草弾左衛門等その枠外で大変な力を持った存在もおりました。
 さらに劇場版の4作目で千葉真一演じる流れの仕事人は河原に仮設のテントの様な家を建てて暮らしてました。 更に劇場版最終作では葛西衆というのが出てきて彼等は、大奥の糞尿と人知れず下ろした子供の処理などをする汚れ仕事をする存在でした。そして頭の言葉「おれたちゃな、世間のゴミだ恥だ、だが金はある」なにか現在のそういった方々の利権なんかを連想させる部分がありますね。
 そうやって探すと明らかにそういった事を想定して創ってると思います。
返信する

コメントを投稿