言わずと知れた黒澤明監督の傑作時代劇『椿三十郎』を、森田芳光監督がリメイクしたヴァージョンを観ました。
オリジナル版で三船敏郎が演じた椿三十郎を織田裕二、仲代達矢が演じた室戸半兵衛を豊川悦司がそれぞれ演じています。
脚本はオリジナル版のものを改編することなくそのまま使っているので、ストーリー展開もセリフもすべて同じ、だから、両監督の演出の違いがより明確に見えてくる。
結果として分かったことは、黒澤監督はあまり余計な演出を加えずにテンポよく進めていくのに対し、森田監督は色々細かい演出を付けていくため感情表現等は豊かになりますが、その度にテンポが止まってしまい、観ていて少しイラッとするところがあります。
黒澤監督は必要最小限の、でも絶対必要な演出を効果的につけていく。森田監督は上手い人なだけに色々やりすぎてしまうところがあるように思えましたね。
これがリメイク版でなかったら、それも同じ脚本でなかったら、あまり気にならない点だったのかもしれませんが、まったく同じ脚本であったが故に、両監督の違い、というより「差」というものが思いっきり見えてしまった感じがします。
やはり、黒澤監督は凄い!
それにしても、主演が織田裕二というのは、どうにも納得がいかない。
この椿三十郎という役は本来、超絶的に強いスーパーヒーローであり、三船敏郎が演じることを前提として脚本が書かれています。
しかし織田さんはどこから見ても超絶ヒーローには見えないし、三船さんのようなギラギラ感がない。だから「あなたはまるで抜身の刀のようですね」というセリフにリアリティがないのです。椿三十郎という男を表す、もっとも最適なセリフだというのに。
抑々三船さんのような豪快でスピーディーな殺陣など、織田さんに出来るわけがない。数十人を30秒かからずに、ほぼワンカットで一気に斬り捨てるなんて芸当が、織田さんにできるわけがない。
だからそういう超絶的な強さというのは最初から諦めている。代わりに細かくカットを割って編集で繋ぎ、殺陣のアラがなるべく見えないような殺陣に仕上げています。
まあこれはこれで、悪い殺陣ではないですが、私が知っている『椿三十郎』ではない。
ラストの室戸半兵衛との一騎打ち。オリジナル版のように一瞬で決まるのではなく、両者の実力が拮抗したスリリングな殺陣になっており、これはこれで悪くはない。
森田監督は「リアルさを追求した」とおっしゃっていたそうですが、つまりは三船さんのような超絶的な殺陣は、誰にも出来ないということにほかならない。
重ねて言います、これが『椿三十郎』ではなく、別の作品だったなら
この殺陣でも良かったのだけれどねえ。
結局、オリジナル版の凄さを再確認する結果となった作品でした。
オリジナル版を知らない方、オリジナル版に思い入れのない方なら、それなりに楽しめる
かも。
つくずく思うのは、映画はやはり脚本が大事だということ。良いホンがあれば、誰が撮ってもそれなりに面白い作品になるし、逆にホンが悪ければどんな巨匠が撮ってもロクな映画にならない。
ホンはホントに大事。
豊川悦司さんは、オリジナル版の仲代達矢さんのような鋭さは足りない感じがしたけれど、仲代さんにはない「可愛げ」があって面白かった。
あと良かったのは佐々木蔵之介さん、オリジナル版では小林桂樹さんが演じた「押入の中にいる男」。飄々とした感じがなんとも面白かったですねえ。
まあ、こんなところですかね。
つまらない映画ではないです。なにせ脚本が優れていますからね。ただ
「世界のクロサワ」の壁は
越え難い。