風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』 2017

2018-07-24 04:05:22 | 映画











※ネタバレあり!








ギレルモ・デル・トロ監督、これほど切なくも美しいラヴ・ストーリーを撮り上げるとは、やはりただの「オタク」監督ではありませんでしたね。この作品はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞つまりグランプリを獲得し、第90回アカデミー賞では作品賞、監督賞、音楽賞、美術賞の4冠を獲得しており、『シン・ゴジラ』が日本アカデミー賞を獲ったときにも思いましたが、こういう作品がグランプリを獲る時代になったんだなあと、感慨ひとしおであります。



大昔のモンスター映画『大アマゾンの半魚人』を、内容を大幅に変えた完全オリジナル・ストーリーとして復活させた本作は、現代の「異類婚姻譚」とも云うべき「神話性」を持ち、なにか、人間のDNAに訴えかけるような懐かしさ、切なさ、美しさを感じさせます。


ちょっと大げさかな(笑)






時代は1960年代の冷戦時代。アメリカの機密機関「航空宇宙研究センター」に清掃員として勤めているイライザ(サリー・ホーキンス)は、そこで不思議な生き物と遭遇します。

その生物はアマゾンの奥地の原住民に、神として崇められていた、半人半魚の生物。研究所ではこの水中でも地上でも生きられる生物の呼吸器官の秘密を探ることで、宇宙飛行士たちの宇宙空間での活動に生かせないか研究しようとしていたのです。


イライザは赤ん坊の頃に首筋を切られ、以来声を出すことができません。自分はいったい何者なのか?イライザは次第にこの一人ぽっちの生物にある種の共感を抱くようになっていきます。



機密保持のためこの「半魚人」を警固しているストリックランド(マイケル・シャノン)という男は大変残虐な男で、電磁警棒を使ってこの生物を虐待していました。イライザは「彼」=半魚人と意志の疎通を図ろうと、おやつ代わりに持参していたゆで卵を「彼」に与え、徐々に慣れさせていきます。


「彼」の水槽の近くでレコード・プレーヤーを回し、音楽を聴かせるイライザ。「彼」はイライザに心を許すようになり、イライザは「彼」に手話を教え、二人の意志の疎通は益々活発なものになっていきます。



研究所は「彼」を生体解剖にかけることを決定します。イライザは「彼」を研究所から脱出させようとします。アパートの同居人で同性愛者の画家、シャイルズ(リチャード・ジェンキンス)や、同僚の黒人女性、ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)また研究所の研究員で実はソ連のスパイ、ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)らの協力もあって、ゼルダは「彼」の救出に成功、自宅アパートの浴槽に彼を匿います。


「彼」を世話するうち、二人は本当に心から愛し合うようになっていく。しかしこの生活がいつまでも続くわけはなく、しだいに衰弱していく「彼」を海へ逃がそうと、イライザは雨の日を利用して「彼」を波止場へと連れて行く計画を立てるのですが、ストリックランドの追手が間近に迫る!


果たしてイライザは、「彼」を無事逃がすことができるのか!?








洋の東西を問わず、古今の神話には例えば大蛇と婚姻したり、「わに」と婚姻したり、あるいは狼に育てられた赤ん坊だったり、こうした人間以外の異類の血筋を得、あるいは関りを持った者が王位に就くという話がよくあります。これは太古の人類に普遍的にあった大自然崇拝を表しているとも云えますが、あるいは本当に、このような生物たちはかつて「存在」していたのかもしれない。なんて、ちょっとしたロマンをも想起させずには置きませんね。


大自然から人が人としてこの世に生まれる過程において、人と人「以前」の生物との間を繋ぐ存在、あるいは大自然の精霊が生物化したもの。そのような者たちがかつては存在し、人と混在していたのかも知れない。


この「彼」はおそらく、そうした生物たちの最後の生き残りなのでしょう。


だからこそこの映画は、我々のDNAに直接語り掛けてくる懐かしさと、切なさを持っているのでしょう。



ともかくね、下手な描き方をすればただの「気持ち悪い」話で終わってしまうところを、よくぞこれだけ美しい物語に仕上げてくれたと思います。その手腕にはただただ脱帽するばかり。ギレルモ・デル・トロ。ただのオタクじゃありません(笑)





「彼」の存在を通して、綺麗な心を持った者たちはより美しく、醜悪な心の奴らはより醜悪になっていく。「彼」に関わった者たちは皆、その心の本質をさらけ出さずにはおれない。それは「彼」が本当に


大自然の精霊、「神」であるから、なのかもしれない。




現代の異類婚姻譚。現代の神話。好き嫌いは分かれるかもしれませんが、きっと深く心に刻まれる物語であることは間違いありません。




深く静かに、おススメします。






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2 コメント

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Unknown (チャメゴン)
2018-07-24 22:13:01
半魚人は大自然の精霊なのですね。
そんな彼と心が触れ合いいつしか二人は恋に落ち…。切なくも美しい、DNAに触れるような…。
ギレルモ・デル・トモ監督の傑作ですね。
是非観たい作品です!
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Unknown (薫風亭奥大道)
2018-07-25 00:35:55
チャメさん、多少クセが強いところがあるので、そこが好き嫌いの分かれるところかなとは思いますが、間違いなく傑作です!
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