サンタ・アナでバスを待っている若い男性にホテルまでの行き方を聞いた。重たそうな荷物を持っていたので夫が抱えた。ちょっと戸惑った顔をしていたが着いてから言った。「それは母のなんです」。彼は母の大事な商売用アイスクリームがとけることを気にしつつもバス乗車を中止し、暑いさなか我々を案内してくれたのだ。その夜彼を食事に招待した。好青年ルイース君は若き日アメリカに渡ったがアメリカ兵としてイラクに参戦、死線をさまよい、母恋しさに母国に戻り就職、働きつつ歯科医を目指して猛勉強中だった。翌朝タスマル遺跡に向かう私たちを見送りに来て長距離バス乗り場まで案内してくれたのだった。タスマル遺跡はグアテマラに近いチャルチュアパ市にあるマヤ文明遺跡の一つで1940~50年にかけ発掘され、日本の金沢大学もその調査、復元に精力を注いでいるようだ。
青年海外協力隊で1974年にこの国にきて柔道を強化指導し、現地女性と結婚し、首都で小さなホテルを経営しているHさんに出会った。彼の話によると、エルサルバドル内戦が1980年に始まり1992年の和平合意まで12年間に及び、大虐殺もあり、死者7.5万人という悲惨な時期が続き、大使館員や大多数の日本人は帰国したが彼は残り、閉鎖された大使館の臨時大使代行となった。日本人旅行者を救出したりし「良い大使だと言われた」と回想した。療養中にも関わらずビールを飲んで暮らす62歳のHさんに「人生これからよ。もう一花咲かせて!」と励ました。
地球千鳥足の筆者の旅の最大目的は人々との触れ合いである。世界遺産より人間遺産に触れ心の交流を心がける。グローバル時代の今、政府もNGOも企業も国際親善に努めているが一介の旅行者も国際交流に貢献できる、との思いをいつも忘れず交流する。(彩の渦輪)