中南米で一番遅れて新政権が誕生し18年経つこの国は現今は安定を享受しているようだが、かつては独裁、弾圧、内戦、大地震などが繰り返され血に染められた歴史がある。首都サンサルバドルに到着して他の中米諸国と変わらぬ雰囲気にホッとした。だが日系人の安宿の主人に、「治安が悪いので個人旅行ではウエイスト・バックやカメラなどは人目に触れないようにしろ」と注意された。だが恐がっていたのでは旅は出来ない。犬も歩けば棒に当たる式の旅には期待があった。
エルサルバドルは九州の半分ぐらいの狭い国土で国内航空機は飛んでいない。貨幣は米ドルがそのまま使えるので換金の必要がなく便利だ。内戦中は国内に仕事がなく多くの働き手は米国に出稼ぎに出ていたが、国の安定とともに帰国し、今は高い失業率に悩まされているようだ。だが男女とも体型は太り気味で三段腹の人が多かった。アメリカナイズされたファーストフードのせいだろう。セントロには軒並みに店が連なっており、市場の混雑ぶりはいずこの国も等しく活気がある。政府は国の経済振興策にコーヒーの生産及びその品質改善を重視している。確かにどこで飲んでも安価で美味しいことは経験した。気付いたことだが目の鋭い人たちを多く見かけた。移動はバス、タクシーのみ。都市間を結ぶ主要道路は整備されており長距離バスも多い。ほんの一部のバスしか冷房はない。窓から熱帯の風が入ってくる。山間部が多いので陽光さえ避ければ汗をかかない。市内、郊外バスの乗客は親切だ。雨季だったせいか旅行者は我々のみ、下車場所を尋ねると多くの乗客が反応してここだここだと教えてくれる。降りたら「この人が同じ方向に行くからついていけ」とバトンタッチする。ある時は乗り継ぎバス停まで連れて行ってくれたりと親切に会うことが多かった。郊外バスの中では懸命に生きる庶民をひしひしと感じた。乗客を目当てに相変わらず物売りがひっきりなしに乗り込んでは降りて行く。一品1ドル以内の商売だから日に20ドル以下の儲けだろう。それをやるしか生きる方法のない大人や子どもたち。彼らなりに汗にまみれて働いている。日本の登校拒否の子どもたちにこの現実を見せてやりたいと思うことしきりだった。同じ人間に生まれながらこの差をどう考えればよいか、と。続く(自悠人)