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あけぼの

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湖上は大揺れ、チワワ太平洋鉄道

2010-07-27 14:06:19 | アート・文化

 汽車の窓からハンケチ振れば/明るい乙女が花束投げる/・・・「高原列車は行く」の歌そのままに、チワワ高原列車は比類無きパノラマ風景とドラマを展開し、貴方の胸に忘れえぬ鮮明な思い出を刻んでくれるだろう。長の年月をかけて1960年に完成した全長653kmの鉄道で、標高2000m級の山岳地帯が続くチワワ~ロスモチス間を一日一往復、列車はゆっくり進むので窓外の原生林や緑の渓谷を心ゆくまで堪能できる。

心に残る鉄道の旅は十人十色だろう。オスロー~ベルゲン間のベルゲン山岳鉄道はぞっとするほど美しいフィヨルドや豪快な滝を見せてくれる。マチュピチュからクスコまでの列車も郷愁を呼ぶ。スイッチバックを繰り返し、夕日が落ちる頃には別れを惜しんで車内に哀愁を帯びた「コンドルは飛ぶ」が流される。先ほど悲しい犠牲者が出たスイスの氷河特急列車は日本人には大変な人気のようだ。このように鉄道マニアにはご贔屓鉄道は種々あろうが、このチワワ太平洋鉄道はいずれにも劣らぬ垂涎ものだ。窓外のある場所には転覆した列車が錆びるに任せて放置され、何かを強く訴えてくる。乗客は想像力を逞しくし犠牲者に語りかけ、物思いに沈む。

その転覆車両を見た直後だった。列車が急に止まった。そのうち誰かが、「踏切事故だ!」と叫び、乗客が次々と線路上に降りはじめた。筆者も降り、線路上を人の後について列車の先頭まで行ってみた。野次馬根性一番のこのおばさんが見たものは・・・即死した若い運転手だった。踏切のど真ん中に停車した中型トラックの運転席でハンドルは握ったまま、生きているような表情の青年だった。どこにも傷や出血がない。当たり所が悪いショック死だったのだろうか。「遮断機が下りる前に渡りたかったの?朝っぱらからこんなのんびりしたところで、なぜそんなに急いだの?命をかける気は毛頭無かったでしょ?うっかりミスだったのよね?」と筆者は心中で問いかけた。「人はひょんなことで取り返しのつかないミスをするものなんですよ」と、その安らかな死に顔が言葉を返したように思えた。続く(彩の渦輪)