私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Les Piéces de Clavessin de Mr Louis Couperin
Astrée E 8732
演奏:Blandine Verlet (Clavecin)

今回紹介するチェンバロは、すでにこのブログの「 オリジナルのリュッカース・チェンバロで聴くバッハの作品」で紹介した、ヤン・リュッカースII世によって1624年に製作された、その時点では上段鍵盤はC/E - c”’、下段鍵盤はGG/BB - c”’の移調鍵盤を備えた、8フィートと4フィートの弦を持つ楽器であった。17世紀の前半にフランスにもたらされ、まず移調鍵盤が通常の二段鍵盤に変更され、8フィート弦が追加された。その後1720年頃に、ショートオクターブがフルの音階に変更され、高音域がc’’’からd’’’に延長された。しかしこれらの変更は、本体に変更を加えることなく行われた。この楽器がどのような経路をたどって来たのか不明であるが、1747年に死亡したコンデ=アン=ブリー城の所有者ジャン・フランソア・レリジェ・ドゥ・ラファイエ(Jean François Leriget de Lafaye)の遺産目録に、この楽器と思われる2段鍵盤のチェンバロが掲載されている。この楽器を1980年にコルマーのウンターリンデン美術館が古物商を通じ購入し、修復を行って今日に至っている。
 今回紹介するCDに収められているのは、ルイ・クープラン(Louis Couperin, 1626年頃 - 1661)のチェンバロ組曲である。ルイ・クープランは19世紀まで続く音楽家一族の最初の職業音楽家である。バロック時代の鍵盤楽器のための作品に重要な貢献をしたチェンバロ、オルガン奏者であった。大クープラン(フランソア・クープラン、François Couperin le Grand, 1668 - 1733)は甥に当たる。35歳という若さで死亡したルイ・クープランの作品は、生前には出版されることはなく、1936年に始めてオアゾ・リール出版社によってチェンバロ作品集が刊行された。現在はダヴィッド・モロネイ編纂の版が最新のものとされている。この作品集には134曲が収められていて、最も重要なBauyn手稿に従って、最初に前奏曲がまとめられ、それに続いて調性ごとにまとめられた舞曲楽章が掲載され、その後にいくつかの他の作曲家の作品にドゥーブルを加えた曲などが、そして最後に3曲の他の手稿からの舞曲が収められている。このようにルイ・クープランのチェンバロにための作品は、個々の組曲の形態を取っていない。このCDでも、モロネイ版から選んだ曲によって、ヘ長調、ト短調、イ長調、ニ短調の4つの組曲を構成し、それにパヴァーヌ嬰ヘ短調を加えている。
 演奏しているのはブランディーヌ・ヴェルレで、すでに前掲のCDや「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」全曲のCDで演奏しているフランスのチェンバロ奏者である。
 録音は1989年9月にウンターリンデン美術館で行われた。すでに紹介した2つの録音よりさらに近接して録られており、録音された空間の音はほとんど感じられない。アストレー・レーベルは、ナイーヴ・レーベルに吸収され、その録音資産の多くは、再版されていないので、このCDも現在は入手が難しいようだ。

発売元: Astrée
     naïve

以上3回にわたってヤン・リュッカースII世の製作したチェンバロ3台の演奏を収めたCDを紹介したが、一世を風靡したリュッカース工房作のチェンバロは、弦の振動とそれを増幅する響板の振動、それに本体の共鳴が加わった響きが、各声部の線的動きを重要視するバロック時代の曲の演奏に適していることを実際の演奏によって知ることが出来た。このフレミッシュ・チェンバロを手本にして発展したフレンチタイプが、バロックの最後を飾るチェンバロとなったわけだが、今日依然として多くのフレミッシュタイプを基にした複製楽器が作られ続けているのは、そのバランスのとれた響きのためであろう。
 しかしながら、今回紹介した3枚のCDとも現在では入手が難しくなっていることは、非常に残念なことだ。3枚目のウンターリンデン美術館所蔵のチェンバロに関しては、アストレーあるいはナイーヴ・レーベルで何枚かのCDが入手可能なので、それらで聴く事は可能である。他の2枚についても、何とか再発して欲しいものである。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
クラシック音楽鑑賞をテーマとするブログを、ランキング形式で紹介するサイト。
興味ある人はこのアイコンをクリックしてください。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


« オリジナルの... ペルゴレージ... »
 
コメント
 
 
 
リュッカース (uraura)
2012-07-26 00:07:36
同じ楽器を使ってショルンスハイムが平均律全曲を録音していますね(カプリッチョ)。
 
 
 
1624年リュッカース (ogawa_j)
2012-07-26 11:13:18
urauraさん、こんにちは。
演奏可能なオリジナルの楽器というのは、ヨーロッパでもそれほど多くはないようですね。このコルマーのウンターデンリンデン美術館所蔵のものや、ケネス・ギルバートが所有し、シャルトルの博物館が保管しているヤン・クーシェ - ブランシェ - タスカンのチェンバロなど、複数の奏者が演奏に使用しているチェンバロが幾つもあります。確かにこの1624年ヤン・リュッカースII世作のチェンバロは、非常に良く整備されているようで、近接して録音しても、機械的雑音が無く、良く整った美しい響きがしますね。
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。