私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
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1610年エザイアス・コムペニウス製作のオルガンで聴くルネサンス、初期バロックの宮廷音楽と舞曲
中世、ルネサンスの音楽
/
2013-05-18 11:21:32
Court and Dance Music from the Renaissance and Early Baroque
BIS BIS-CD-126
演奏:Lena jacobson (Organ)
現在デンマーク、ヒレロドのフレデリクスボー城にある、エザイアス・コムペニウス製作のオルガンは、1610年に製作されたもので、製作当時のまま現存する極めて貴重な楽器である。エザイアス・コムペニウス(Esaias Compenius der Ältere, 1566 - 1617)は、1566年12月8日に、ドイツ、アイスレーベンの聖アンドレアス教会で幼児洗礼を受けた。父親のハインリヒ・コムペニウス(Heinrich Compenius der Ältere, 1530-1540 - 1611)も優れたオルガン製作者であった。さらにエザイアスの兄弟であるハインリヒII世とティモテウスもオルガン製作者であった。エザイアスは1585年までノルトハウゼンの父親の工房で修行し、1586年から1589年までは共同経営者であった。1589年にヘットシュテットのオルガン製作に当たって、父親と風箱の構造に関して意見が衝突し、仕事を放棄し、さしあたりマグデブルクで独立して工房を設けたようだが、1602年までの行動は分かっていない。1605年からは、ブラウンシュヴァイクでブランデンブルク=ヴォルフェンビュッテル公爵ハインリヒ・ユリウスのオルガンおよび楽器製造者の任務に就き、ミヒャエル・プレトリウス(Michael Praetorius、本名はMichael Schultheiß, 1571 - 1621)と出会い親交を結んだ。
エザイアス・コムペニウスが制作したオルガンは、8基知られているが、その殆どが現存せず、2基で一部のレギスターが残っているだけである。そして1基のみ今日完全な形で残っている。他の7基が教会や宮廷の礼拝堂に設置されていたが、この現存するオルガンは木のケースに収納された、移動可能なオルガンである。このオルガンは、ハインリヒ・ユリウス公爵の夏の離宮であるヘッセン城に設置するよう注文を受け、1605年から1610年にかけて製作され、1610年2月7日に完成したとオルガンにラテン語で記載されている。1613年の公爵の死後しばらくはヘッセンの宮廷に置かれていたが、公妃は1616年にこれを兄弟のデンマーク王クリスティアンIV世に贈り、1617年にエザイアス自身がデンマーク、ヒレドロのフレデリクスボー城に移設した。エザイアスはその際旅行先で急死してしまった。オルガンは1693年に城内の騎士の間に移され、さらに1793年に、紛らわしい名だが、コペンハーゲンのフレデリクスベルグに移された。1859年にフレデリクスボーは火災に遭い、再建後の1868年に、オルガンは再びフレデリクボー城に戻された。1891年には、ヘルシンゴールのフランス領事でオルガンの専門家であるC. M. フィルベールが、このオルガンを科学的に探求した結果を発表し、「17世紀初めのオルガン製作技術の歴史に於ける最も重要な記念碑であり、芸術的至宝である*」と絶賛した。その結果として1895年に、アストリッド・カヴァイエ=コルの工房のフェリックス・ラインブルクとフランス人のジャン・ラフォン、それにデンマークのオルガン製作者V. H. ブッシュ等によって、慎重かつ入念な修復が行われた。その際、当時の修復、改修でよくあったような「改良」はなされず、もとのパイプをはじめすべて変更を加えず維持された。その後も1980年代に、ふいごの修復や様々な細部、ケースの修復が行われた。
このオルガンについては、プレトリウスはその著書「音楽大全(syntagma musicum)」の第II巻「オルガノグラフィア(De organographia)」(1619年)にレギスターのリストを含めその詳細を掲載している。ただ、完成年を誤って1612年と記している。このオルガンは、イタリア伝統の「木製オルガン(organo di legno)」で、ケースだけでなく、パイプもすべて木製である。
デンマーク、フレデリクスボー城にある1610年エザイアス・コムペニウス・オルガン
(“
The Compenius Organ 400 year anniversary
”掲載の写真を引用)
ケースはオーク製のルネサンス様式で、ルネサンス様式の古典を主題とした様々な木彫が、トネリコ、セイヨウナナカマド、梨、黒檀などで彫られ、取り付けられている。高さは、床から軒までが3.15メートル、床からドームの頂点までが3.62メートル、幅が2.88メートル、奥行きが1.5メートルである。2枚の折りたたみ式の扉を閉じ、ペダルを収納すると、その外見は箪笥のようである。折扉を開くと、正面に3つのグループに分けられた上段鍵盤のプリンシパルの楓材のパイプが、表面に象牙が貼られて並んでいる。その上端には同じく象牙を彫った装飾が付けられている。パイプはすべて木製で、オーク、楓、サテン・ウッド、クルミ、梨、黒檀など様々な銘木が使われている。
オルガンは2段鍵盤とペダル、それぞれ9個、合計27のレギスターを有している。2段の鍵盤およびペダルのナチュラルキーは象牙が貼られている。レギスターのノブは男女の顔やライオンの頭の装飾を施した銀製である。ケースの内部はおよそ1,000本のパイプ、鍵盤とパイプに空気を送る弁とを繋ぐ機構、レギスターの開閉機構等でぎっしりと詰まっている。送風装置は、現在も手動のふいごのようである。
ピッチは a’ = 467 Hz(摂氏20度)、調律は中全音である。パイプの構成は、オルガンの響きの基礎となるプリンシパルや閉管フルート系などのパイプに加え、様々なリードパイプによる変化に富んだ音色に特徴がある。製作当時は、ヘッセンの離宮の礼拝堂に置かれていたが、どちらかというと舞曲や歌謡の伴奏など、世俗曲の演奏により向いているということも出来る。
このオルガンは現在も演奏可能で、何度も録音されてきたが、その多くが廃盤となっており、現在入手可能なのは今回紹介するBISレーベルのCDのみである。実際の音を聞いてみると、機械的な雑音がやや耳につく。これは、1964年6月に録音されたドイツ・グラモフォン、アルヒーフの「シュッツ時代のオルガン音楽」に於いても聞かれる。
今回紹介するCDは、レナ・ヤコブソンが演奏するBIS盤で、標題は「ルネサンスと初期バロックの宮廷および舞踏音楽」である。レナ・ヤコブソンという奏者は、CDに添付の小冊子の紹介に「現代の他の演奏家とは異なった独自の奏法を強力に主張している。古い音楽の語法と強く結びついた、その結果フレスコバルディ、ブクステフーデやバッハの時代の『話すような』演奏を行う」と記されているが、実際の演奏は、レガート奏法を排して一音一音がポツポツと途切れる、しかもテンポが一定でない奇矯なものである。筆者はヤコブソンのブクステフーデの演奏を聴いたことがある(ドイツ・ハルモニアムンディ 05472 77455 2)が、今回のCDに於ける演奏と同じである。とりわけ舞曲の演奏では、リズムが全く感じられず、なぜこの様な演奏をするのか、理解に苦しむ。まさかルネサンス時代の人は、この様なリズムの一定しない演奏に合わせて踊っていたと言うことはないだろう。せっかく400年の前のオルガンに音を聞こうとしても、その演奏の奇妙さが妨げとなってしまう。
このCDは1978年3月に録音されたアナログ音源からのデジタル化である。
発売元:
BIS
* ウィキペディアドイツ語版の”
Orgel von Schloss Frederiksborg
”から引用。
注)エザイアス・コムペニウスおよびフレデリクスボーのコムペニウス・オルガンについては、ウィキペディアドイツ語版の”
Esaias Compenius der Ältere
“および”
Orgel von Schloss Frederiksborg
”、CDに添付の小冊子の解説並びにレギスターの表を参考にした。
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(
しん
)
2013-05-22 17:30:22
はじめまして!
突然失礼致します。
この度は相互リンクのお願いでメールさせて頂きました。
クラシックについては、ド素人ですが、興味もあり、色々調べながら曲を紹介するサイトを作っています ^^;
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「クラシックの名曲を聴こう!」へのリンクの件
(
ogawa_j
)
2013-05-26 18:18:35
しんさんの「クラシックの名曲を聴こう!」は、作品の紹介と言っても、YouTubeなどへのリンクのサイトなんですね。それ自体決して意味のないことだとは思いませんが、私としては、リンクの必要を感じません。あしからず。
Unknown
(
しん
)
2013-05-27 03:38:53
リンク件、残念ですが、了解しました。
お手数お掛け致しました。
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