私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Brahms Symphonien 3 & 4
EMI Classics 7243 5 56118 2 6
演奏:The London Classical Players. Roger Norrington

ブラームスは、第1番の交響曲に14年の歳月をかけた後、1年後に第2番を完成させたが、それから6年後の1883年の夏に第3番を作曲した。最初の交響曲第1番を作曲した頃もそうであったが、第3番が作曲された頃は交響詩や標題音楽こそがこれからの音楽であると主張するフランツ・リストやリヒャルト・ヴァーグナーに代表される「新ドイツ楽派」と、音楽そのものの内的表現によってのみ評価されるべきだと主張する「絶対音楽派」との論争が激しさを増していた時期であった。交響曲第3番は、この様な論争の中にあって、絶対音楽的主張にもとづいて作曲したと言う背景があったようである。しかし、この交響曲においては、スケッチや下書き、書面による報告が全くなく、どのような経過をたどって作曲されたかは不明である。
 交響曲第3番作品90の主調はヘ長調であるが、第2番のような明るさが支配しているわけではなく、木管によって奏されるf’ - as’ - f”の基本動機に続く主題は激しい下降音型に始まり、しばしば短調と長調が交錯する複雑な楽想が支配的である。4楽章の内中間の二つの楽章、ハ長調アンダンテの穏やかな第2楽章とハ短調の憂愁に満ちた第3楽章は、両端の楽章に比較すると控えめな楽章である。第4楽章は、弦楽合奏とファゴットによる弱音で奏される不安定な主題に始まり、コラールのような旋律が続き鋭くぎざぎざした動きの終結部からなる。楽章の経過の内には、第2楽章の移行主題や第3楽章の副主題も現れ、終結部は、第1楽章の第1主題が弱音で回帰して静かに終わる。この第4楽章でも、ヘ短調とヘ長調が交錯し、主調が定まらない。
 交響曲第4番ホ短調作品98についても、スケッチや草稿、書面による報告が無く、作曲の経過ははっきりしない。おそらく最初の2つの楽章は、1884年の6月から10月、残りの2つの楽章は、1885年の5月終わりから10月にかけて作曲されたものと思われる。その際、第4楽章の方が先に作曲されたようである。
 第1楽章は下降3度と上昇6度の主題で始まり、この主題が形を様々に変えながら全楽章を支配する。形式的には典型的なソナタ形式である。第2楽章は、付点音符を含む歩くようなリズムの主題を管楽器が奏し、そのリズムを弦楽器が受け継いで進行する。ヴァイオリンが主題を変奏し、それが三連音符による盛り上がりに達した後、チェロが非常に美しい第2主題を奏する。再現部では、この第2主題が弦楽器のフォルテで重厚に奏される。最後は第1主題が回帰して静かに終わる。第3楽章は、ブラームスの交響曲では今まで無かったスケルツォを採用し、劇的である意味諧謔的な展開をする。トライアングルやピッコロ、C管のクラリネットなどを加えた響きがそれを助長する。短いゆっくりしたテンポの中間部は、ホルンの情緒的な旋律によって始まるが、すぐに主部に戻り、荒れ狂うように終結に向かう。第4楽章は、シャコンヌあるいはパッサカリアといえる古典的な変奏により構成される。冒頭に奏される8小節の主題は、バッハの教会カンタータ「主よ、あなたを願い求めます(Nach dir, Herr, verlanget mich)」(BWV 150)の第7楽章のシャコンヌの低音主題を基にしている。このカンタータは、バッハがヴァイマール宮廷のオルガニスト宮廷楽団員であった1710年頃に作曲したものと思われ、特定の教会暦にもとづいた曲ではない。このカンタータは、1884年にバッハ協会から刊行された全集の第30巻に掲載されており、これを予約購読していたブラームスの目に止まったものである。主題は全管楽器のフォルテによって提示され、30の変奏曲が多彩に展開する。253小節からの終結部もこの主題に基づいて展開する。ブラームスがこのバロック時代の変奏曲の形式を、交響曲の楽章として採用したのは、バッハの影響とともに、交響詩や標題音楽に対して、「絶対音楽」の表現力を示すためでもあったのだろう。
 初演は1885年10月25日に、マイニンゲンでブラームスの指揮で行われた。その1週間後から、ハンス・フォン・ビューロー指揮、マイニンゲン宮廷楽団のドイツ、オランダでの演奏旅行で演奏され、成功を収めた。1897年、死を間近に控えたブラームスは、ヴィーンに於けるこの交響曲の演奏会に聴衆として参加し、聴衆の熱狂的な賞賛を受けた。
 今回紹介するCDは、ブラームスの交響曲第1番および第2番と同様、ロジャー・ノリントン指揮、ロンドン・クラシカル・プレイヤーズの演奏によるEMI盤である。ノリントンとロンドン・クラシカル・プレイヤーズについては、これまでにも何度も触れた。オーケストラは1997年に、オーケストラ・オヴ・ジ・エイジ・オヴ・エンライトゥンメントに吸収されている。ノリントンは、次第にモダンオーケストラの指揮を行うようになり、日本にもNHK交響楽団の指揮をするなど、何度も来日している。
 すでに交響曲第1番や第2番を紹介した際にも触れたように、ノリントンは、当時のオーケストラで使用されていた弦楽器や管楽器、ティンパニなどを研究し、その奏法やテンポなどを様々な当時の証言によって知った上で、当時一般的であったオーケストラの楽器、通常の演奏会に於ける編成にもとづいて、第1、第2ヴァイオリン各10、ヴィオラ7、チェロ6、コントラバス6、フルート、クラリネット、ファゴット各2、オーボエ3(おそらく録音に於いて入れ替えがあったためで、実際は2名だったと思われる)、コントラ・ファゴット1、ホルン6(これも録音の際に入れ替えがあったためで、実際は4名であったと思われる)、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ1、打楽器1の編成である。ホルンやトランペットに関してブラームスは、基本的にはピストンやバルヴのない自然金管楽器の記譜を行っていたが、ブラームスが指揮したオーケストラをはじめ、当時のオーケストラは、すでにピストンやバルヴを備えた楽器を使用していたことが分かっているので、ノリントンはそれに従っている。ピッチは a’ = 435 Hz である。前にも引用したが、この録音に於ける演奏の基本姿勢は、「オリジナル楽器を採用し、その独自のスタイルによる演奏は、古くさいものになってしまうと言うことではない。逆に、音楽を全く新しいものにすることが出来る。それは我々に、この偉大な作品を改めて考え直し、新たに創造する機会を与えてくれるのである」と言うノリントンの言葉に言い表されている。
 録音は、1995年5月にロンドンで行われた。EMIにおけるオリジナル楽器による演奏の録音は、基本的にヴァージン・レーベルで再発されているが、ブラームスの交響曲は、4曲とも現在は廃盤になっている。この一連のブラームスの交響曲のオリジナル編成のオーケストラによる演奏の録音は、その存在意義を全く失っていないので、ぜひ再発して欲しいものである。

発売元:EMI Classics

注)ブラームスの交響曲第3番および第4番については、ウィキペディアドイツ語版の”3. Sinfonie (Brahms)“および”4. Sinfonie (Brahms)“を主に参考にした。

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