私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




George Frideric Handel (1685 - 1759): Chaconne, Keyboard Suites
Archiv Produktion 410 656-2
演奏:Trevor Pinnock (Harpsichord)

今回紹介するCDで演奏されている楽器は、英国女王エリザベスII世が所有する1612年にヤン・リュッカースII世(Jan Ruckers d. J., 1578 - 1643)が製作したとその銘板に記されている2段鍵盤のチェンバロで、現在はロンドンのフェントン・ハウスにあるベントン・フレッチャー・コレクションに貸与されている。このチェンバロは、元々ヘンデルが所有していたのではないかと考えられているが、その後ジョージIII世の王妃であったシャルロッテの所有となり、彼女の死後にジョージIV世が購入した。 CDに添付の解説書には、製作当初の状態は記されていないが、おそらくは前回紹介した楽器同様、移調鍵盤を備えたチェンバロであったと思われる。18世紀に改造され、その際もう一組の8フィートの弦が追加され、現在はGG/AA - f”’の音域、8’、8’、4’の3組の弦を備えた2段鍵盤の楽器となっている。ショートオクターブがそのまま維持されていることから、オリジナルの本体には変更が加えられていないものと思われる。
 このCDに収録されているのは、1733年にジョン・ウォルシュにより出版されたチェンバロ組曲集第2巻からの5曲である。9曲からなるこの組曲集に収められている作品は、ヘンデルが以前に作曲したものを集めたものである。冒頭のシャコンヌト長調(HWV 435)は、主題と22の変奏から成り、この曲の5つの版の4番目に当たるものである。続くニ短調の組曲(HWV 436)は1721年から1726年の間に作曲されたと考えられ、第2巻の中では最も新しい作品と考えられている。このほかにホ短調(HWV 438)、変ロ長調(HWV 434)、ト長調(HWV 441)が収められている。
 演奏しているトレヴァー・ピノック(Trever Pinnock)は、1946年生まれのイギリスのチェンバロ奏者、指揮者である。ロンドンの王立音楽院でオルガンとチェンバロを学んだ後演奏活動を開始した当時は、モダン楽器を演奏していた。1966年のロンドン・デビューは、フルートのスティーヴン・プレストン(Stephen Preston)とチェロのアンソニー・プリース(Anthony Pleeth)とのガリアルド・ハープシコード・トリオで、これもモダン楽器のアンサンブルであった。このアンサンブルが1972年にイングリッシュ・コンサートへと発展し、オリジナル楽器編成の楽団となった。イングリッシュ・コンサートとの30年に及ぶ活動は、2003年にその地位をアンドリュー・マンゼ(Andrew Manze)に譲って、現在は自由な立場で、チェンバロ演奏と指揮を行っている。このような経歴から分かる通り、ピノックの演奏スタイルは、歴史的演奏様式にこだわらないものである。このCDのような歴史的名器によるヘンデルの組曲も、速いテンポで歯切れのよい演奏している。
 録音は1982年12月に、このチェンバロが保管されているフェントン・ハウスで行われた。前回紹介したフェレン城に於ける録音よりやや近い位置から録られているが、やや狭い演奏空間の響きもよく捉えられている。チェンバロの本体の響きも含めて、非常に鮮明である。演奏のピッチや調律については、何も触れられていない。
 アルヒーフ・レーベルのこのCDは、現在ドイツ・グラモフォンのサイトには掲載されていない。トレヴァー・ピノックがイングリッシュ・コンサートを指揮した録音は多数リストアップされているが、チェンバロ独奏のものはほとんどが廃盤になっているようで、残念である。

発売元:Deitsche Grammophon, Archiv Produktion

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