私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Fryderyk Chopin: 24 Preludia op. 28, Andante spinato i Wielki, Polonez Es-dur op. 22
Narodowy Instytut Fryderyka Chopina NIFCCD 006
演奏:Wojciech Switala (fortepian)

ショパンの「24の前奏曲」作品28は、1836年に作曲に取り掛かり、1839年1月にマヨルカ島滞在中に完成させた。マヨルカ島に引っ越したのは、ジョルジュ・サンドの子供モーリスの健康状態の改善のために医師から勧められたためであった。ショパンとジョルジュ・サンド、それに2人の子供は、1838年11月にマヨルカ島に引っ越した。この転地療養は、モーリスにとっては有効であったが、ショパンの結核には効果が無く、さらにマヨルカ人の未婚のショパンとサンドに対するよそよそしい対応にも耐えかね、1839年2月13日には早々にマヨルカを去ることとなった。
 この24の前奏曲は、ショパンが崇拝していたバッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」に倣って作曲されたものである。特にその凝縮された構成と限定された素材による簡潔な表現にショパンの熟練を見ることが出来る。バッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」は、ハ長調とその同主調に始まり、半音ずつ上昇して行くが、ショパンは、ハ長調とその平行短調に始まり、5度ずつ上昇して行く配列を採っている。そして異名同音の転換は第14番の嬰ニ短調に代わって変ホ長調にすることによって行っている。この前奏曲の個々の曲については、ロマン主義時代の人々によって、様々な解釈が行われたが、ショパン自身はその様な意味づけを否定している。しかし第15番変ニ長調の「雨だれ」という呼び名は、今日でも広く行われている。この24の前奏曲は、全曲通して演奏されることもあり、個々の曲が演奏されることもしばしばある。
 今回紹介するCDは、ポーランドの国立フレデリク・ショパン協会(Narodowy Instytut Fryderyka Chopina)が制作、販売している、ピアノ作品全集の内の1枚で、ヴイチェフ・シュフィタラが1848年のプレイエル・ピアノを演奏しているものである。
すでに「ショパンの作品をオリジナルのプレイエル・ピアノで聴く」や「エラール・ピアノによるショパンの24の練習曲集(op. 10 & op. 25)を聴く」において紹介したように、ショパンがパリに住むことになった1831年頃には、パリに工房を持つ2つのピアノ製作会社プレイエルとエラールは、ヨーロッパでも最も優れたピアノを製作していた。アルザス地方出身のセバスティアン・エラール(Sébastien Érard, 1752 – 1831)は、創意工夫に富んだ人物で、ハープに関する2つの特許をはじめ、ピアノに関しての多くの特許を取得しており、中でも「ダブル・エスケープメント」と呼ばれる打弦機構は、同音の早い連打を可能にした機構として、今日のピアノにも採用されている。セバスティアン・エラールは1777年以来パリの工房でピアノの製作を行っていた。一方、ショパンが弾いていた当時のプレイエル・ピアノは、依然としてチェンバロから発展した状態が維持されており、基本構造は木材を用いており、部分的に金属で補強をしている。打弦機構はシングルアクションという単純な構造をしていて、鍵を完全に戻さないと次の音が弾けない。この様なプレイエル・ピアノは、音量は小さいが、繊細なタッチにより、微妙な音色の変化を得られることが、ショパンに特に好まれた理由であろう。大きな演奏会場よりサロンにおける親密な雰囲気での演奏を好んだ彼に向いた楽器であったと思われる。今回紹介するCDに於ける演奏で使用している1848年の82鍵のプレイエル・ピアノは、2005年にフレデリク・ショパン協会がクリス・メネのコレクションから購入したもので、ハンマーや響板などほとんどオリジナルの状態を保っている。
 演奏をしているヴイチェフ・シュフィタラは、カトヴィツェのカロル・シマノフスキ音学院で学び、数多くの国際コンクールで受賞している。1990年にワルシャワで開かれた第122回フレデリク・ショパン国際コンク-ルでは、ポロネーズの最高の演奏者に与えられる賞を獲得している。
 録音は2006年11月と2007年5月にワルシャワのヴィトルト・ルトスラフスキ・ポーランド・ラジオ・コンサート・スタジオで行われた。演奏のピッチはa’ = 430 Hzであるが、調律法は記されていない。
 このCDには、24の前奏曲の他に、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ(Andante spianato et Grande Polonaise brillante )」作品22のピアノ独奏版が収録されている。この曲の演奏に使用されているのは、「エラール・ピアノによるショパンの24の練習曲集(op. 10 & op. 25)を聴く」で紹介したCD(NIFCCD 007)でタチアナ・シェバノヴァ(Tatiana Shebanova, 1953 – 2011)が演奏しているものと同じ1849年作のエラール・ピアノ、製造番号21118の楽器である。「24の前奏曲」のプレイエル・ピアノとこのエラール・ピアノの音の違いを比較する事が出来る。
国立フレデリク・ショパン協会(Narodowy Instytut Fryderyka Chopina)が制作、販売している、この全集は、21枚のCDのボックスセットと、一枚ごとのCDの両方が販売されている。使用楽器は、ショパンと同時代のプレイエルとエラール製のピアノで、演奏しているピアニストも国際的にショパンの演奏を得意としている様々な演奏家が起用されている。例えば、2曲のピアノ協奏曲は、ダン・タイ・ソンとフランス・ブリュッヒェン指揮、18世紀オーケストラによるライヴ録音である(NIFCCD 004)。

 発売元: Narodowy Instytut Fryderyka Chopina


注)ショパンとその「24の前奏曲」については、ウィキペディアドイツ語版の”Frédéric Chopin”、および”24 Préludes op. 28 (Chopin)"を参考にした。

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