私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Brahms Symphonie 2, Tragische Ouvertüre
EMI CDC 7 54875 2
演奏:The London Classical Players, Roger Norrington

ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833 - 1897)が交響曲第1番ハ短調作品68を完成するまでには15年の年月を要し、1876年11月4日にようやく初演に漕ぎ着けたのに対し、交響曲第2番ニ長調作品73は、1877年の夏の休暇中にペルチャウで作曲に取り掛かり、9月から10月にかけてリヒテンタールで完成させ、同年12月には、ピアニストのイグナーツ・ブリュルとともに、四つ手のピアノのための編曲を私的に初演している。正式の初演は同年12月30日にヴィーンの音楽協会でハンス・リヒターの指揮で行われた。この交響曲は、初演当初から好評を持って迎えられ、音楽評論家のエドゥアルト・ハンスリックは、「この作品は、(当然誰でもがというわけではないが) ベートーフェンの後にも交響曲を書くことが出来ることの厳然たる証拠となっている」と書いている。この第2番の交響曲は、他の3曲の交響曲が短調を基調としているのに対して、明るい長調の作品で、その点でピアノ協奏曲第2番ロ長調作品83(1881年)と共通しており、ともに初演以来好評を得ていた。
 第1楽章はd - cis - dの低音の動機で始まる。この動機は、第1楽章全体、そしてこの交響曲全体の主動機として繰り返し登場する。楽章全体はソナタ形式をとっているが、展開部はすでに提示部の内に始まる点が基本形とは異なっている。第2楽章は、A - B - A’のリート形式である。この第2楽章アダージョの冒頭が、交響曲第1番の「運命の主題」と類似しているとの理解から、この楽章が当初は第1番のための構想されたのではないかと、音楽批評家のマックス・カルベックは問題提起していた。また、フィリップ・シュピッタは、交響曲第1番と第2番は対を成していると主張した。しかし、この2曲の交響曲の成立経過を冷静に検討すれば、両者に密接な繋がりを見出すことは出来ない。第3楽章は A - B - A’ - C - A” の5部からなり、2つの中間部BとCは、Aの部分がアレグレット・グラチオーゾであるのに対し、プレストで、第1楽章の主題に基づく舞曲のような楽想である。第4楽章はソナタ形式であるが、ロンド形式のような主題の回帰や主題の変奏が加えられている。この楽章の主題は、第1楽章の主題から導き出されたものだが、「ブラームスの交響曲第1番をオリジナル楽器編成で聴く」で触れたように、主題の後半と、ベートーフェンの交響曲第9番第4楽章のシラーの死の旋律との類似性が指摘されている。そして力強い終結部によって終わる。
 今回紹介するCDは、ロジャー・ノリントン指揮ロンドン・クラシカル・プレイヤーズの演奏によるEMI盤である。ノリントンとこのオーケストラについては、すでに繰り返し紹介した。このオーケストラは、1997年に同じくロンドンにあるオーケストラ・オヴ・ジ・エイジ・オヴ・エンライトゥンメントに吸収された。といっても、もともとメンバーの重複の多いロンドンのオリジナル編成のオーケストラ同士であるから、実質的には、ロンドン・クラシカル・プレイヤーズは消滅したと言って良いだろう。
 ノリントンは、CDに添付されている小冊子で、ブラームスの管弦楽に於ける楽器やオーケストラの編成、演奏の技巧やスタイルについて論じている。弦楽器は19世紀の要請に合わせて製作されたか、古い楽器の場合時代に合わせて改造されており、木管楽器もかなり改良されていたが、今日ほど複雑な構造ではなかった。ホルンやトランペットは、すでにバルヴを備えていたが、ブラームスはむしろ古い古典的な楽器を好んでいた。しかしブラームスが指揮をしたオーケストラでは、すべてバルヴ式のホルンを用いていたので、この録音では、これに従ったが、今日より全体的に軽い楽器を採用したそうだ。編成は、当時の標準的なオーケストラに合わせて、第1、第2ヴァイオリン各10、ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス6、ピッコロ1、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、ホルン5、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ1の61人である。この編成によって、弦楽器と管楽器の音響的バランスが、ブラームスが指揮した当時とかなり近いとノリントンは考えている。演奏のスタイルは、1870年代の演奏様式をことさら再現するのではなく、オリジナル楽器を用いて、今日の感性に従って演奏したと述べている。
 なおこのCDには、他に「悲劇的序曲ニ短調」作品81が収録されている。この作品は、1880年に「大学祝典序曲ハ短調」作品80と同時期に作曲され、同年12月26日にヴィーンで、ハンス・リヒターの指揮で初演された。初演当時の反応はあまり良くなく、後年になって次第に評価されるようになった。ブラームスは、この作品を「大学祝典序曲」と比較して「一方は笑い、他方は泣いている」と述べたことがある。
 録音は1992年9月のロンドンで行われた。EMIのオリジナル編成による演奏のCDは、基本的にはヴァージン・レーベルに移されているが、そのすべてが再発されているわけではなく、ブラームスの交響曲は、残念ながら現在廃盤になっているようである。今日では古典派、ロマン派の管弦楽曲は、アニマ・エテルナやフィリップ・ヘレヴェッヘ指揮のオルケストル・ドゥ・シャンゼリゼーなど幾つもの演奏団体によって録音されているが、1980年代から1990年代にかけての録音も、決してその存在意義が失われたわけではないので、ぜひ永続的の販売して欲しいものである。

発売元:EMI Classics

注)ブラームスの交響曲第2番については、ウィキペディアドイツ語版の”2. Sinfonie (Brahms)“、「悲劇的序曲」については”Tagische Ouvertüre (Brahms)“を参考にした。

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