私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Sonate e Concerti per il Corno da Caccia
RICHERCAR RIC 049027
演奏:Claude Maury (Cor), Ricercar Consort

「コルノ・ダ・カッチャ(corno da caccia)」、そのまま訳すと「狩りのホルン」という楽器は、古くは角笛にその起源があるが、17世紀の初め頃に、主として小型のホルンを意味するものであった。語源からすれば、狩りの際の信号に用いられた楽器であったが、やがて芸術的な音楽を奏する楽器の名としても用いられるようになった。「コルノ・ダ・カッチャ」はイタリア語で、フランス語の「コール・ドウ・シャス(cor de chasse)」、ドイツ語の「ヤークトホルン(Jagthorn)」などの同じ楽器を差している。また、ドイツ語の「ヴァルトホルン(Waldhorn)」も、ほぼ同じ意味である。「コルノ・ダ・カッチャ」はヴァルヴやピストンを持たない、自然倍音のみが出せる楽器である。基音がCのホルンで自然音階によって出せる音は、C c g c’ e’ g’ b’ c” d” e” fis” g” as” b” h” c’’’ で、第4オクターヴのc”からc’’’まではほとんどのナチュラル音階を出すことが出来る。ただ、b’、f”、as”、b”は、自然音階からも、今日の平均律からもかなりずれている*。1750年頃に、アントン・ヨーゼフ・ヘムペル(Anton Joseph Hampel, 1710 - 1771)によって、ホルンの開口部に手を入れて、音程を調整するストップ奏法が開発され、自然倍音では出せない音が出せるようになった。ただこのストップ奏法による音は、ミュートを付けたような音になるので、吹き方によって音色を調整するなど、高度な技術を要する。ホルンにヴァルヴが採用されるようのなったのは、19世紀に入ってからで、本格的にオーケストラに採用されるのは世紀の半ば以降のことである。
 今回紹介するCDは、バロック後半のドイツを中心とした作曲家、ゲオルク・フィリップ・テレマン(Georg Philipp Telemann, 1681 - 1767)、ゲオルク・フリートリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Händel, 1685 - 1759)、ヨハン・フリートリヒ・ファッシュ(Johann Friedrich Fasch, 1688 - 1758)、ゴットフリート・ハインリヒ・シュテルツェル(Gottfried Hainrich Stölzel, 1690 - 1749)、カール=ハインリヒ・グラウン(Carl Heinrich Graun, May 1704 - 1759)、それにアントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi, 1678 - 1741)とミシェル・コレット(Michel Corrette, 1707 - 1795)によるコルノ・ダ・カッチャを伴ったソナタや協奏曲を収録したリチェルカール盤である。添付の小冊子の曲目リストには、作品の調性や作品番号が記されていないので、作品を特定することは難しい。調性については、よく使われた楽器の基調のハ長調かヘ長調、金管楽器はコーアトーンが通常なので、カムマートーンから見て全音高いニ長調かト長調が多いとは思われるが、作品番号は、目録が整備されていない作曲家の場合、判定が出来ない。ヘンデルのクラリネット2とホルンのための序曲は、1741年頃に作曲されたニ長調(HWV 424)である。ファッシュのヴァイオリン、オーボエ、ホルン、ファゴットとチェンバロのための4声のソナタは、いずれもヘ長調の国際ファッシュ協会の目録のFWV N:F3の2曲のいずれかの可能性がある。コレットのLa Choisyという標題のConcerto comiqueに含まれる一曲は、おそらくその第14番であろう。テレマンのチェンバロ伴奏付きホルン、リコーダーのための3声の協奏曲や2本のコール・ドウ・シャスのためのメヌエットは、TWV作品目録には見当たらない。ヴィヴァルディのヴィオラ・ダ・モーレ、コルノ・ダ・カッチャ2、オーボエ2、ファゴットと通奏低音のための協奏曲は、数種の作品目録で、確認出来なかった。シュテルツェル、グラウンの作品については、全く手掛かりがない。
 収録されている曲では、ホルンとヴィオラ・ダ・モーレやヴィオラなどの中音域の弦楽器、オーボエ・ダ・モーレ、オーボエ、クラリネットなどの管楽器などとの様々な組み合わせでの演奏を聴くことが出来る。この楽器の本来の用途である狩りを思わせるような楽想はなく、あくまでも音楽演奏の楽器として認識されていたことを示している。
 ホルンを演奏しているクロード・モリーは、1956年ベルギー生まれの奏者で、ワロン・オペラのオーケストラ、ベルギー・フランス語ラジオ・テレビ・オーケストラの団員として活動した後、1985年に独立し、オリジナル楽器奏者としての活動を開始した。現在もヨーロッパの多くのオリジナル編成のオ-ケストラに加わっている。モリーが演奏しているホルンは、ニュルンベルクのJ. W. ハースが1745年頃に製作したものをヘールト・ヤン・ファン・デア・ヘルデが複製した楽器である。共演しているリチェルカール・コンソートは、1980年にリチェルカール・レーベルと同時にジェローム・レジュネによって創設されたオリジナル楽器のアンサンブルである。創立メンバーには、ヴァイオリン奏者のフランソア・フェルナンデス、オルガン奏者のベルナール・フォクルール、ヴィオラ・ダ・ガムバ奏者のフィリップ・ピエルロ等がいる。創設の第1の目的は、リチェルカールのための録音であったが、演奏活動も行うようになった。リチェルカール・レーベルに於けるドイツ・バロックのカンタータシリーズは、初期の代表的な録音である。今回紹介するCDでは、ヴァイオリン2、ヴィオラ・ダ・ムール、バス・ヴィオール、コントラバス、ヴィエル・ア・ルー(ハーディーガーディー)、ホルン、リコーダー、オーボエ2、オーボエ・ダ・ムール、クラリネット2、ファゴット、それにチェンバロが作品に応じて参加している。第1ヴァイオリンにはフランソア・フェルナンデス、バス・ヴィオールにはフィリップ・ピエルロ、リコーダーにはフレデリク・デ・ロース、ファゴットには現在指揮者として活動しているマルク・ミンコフスキ、チェンバロにはギュイ・ペンソンが加わっている。また、ヴァイオリン奏者の木村美穂子、オーボエ奏者の北里たかと言う2人の日本人奏者も加わっている。
 録音は、1988年4月にベルギー、リエージュ地方のスタヴロ修道院で行われた。演奏のピッチは記されていない。残念ながら、このCDは現在廃盤になっている。

発売元:Outhere/RICHERCAR

* 自然ホルンの音階についての記述は、ウィキペディアドイツ語版の”Naturtonreihe“および”Oberton“によった。


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