<おでいげ>においでおいで

たのしくおしゃべり。そう、おしゃべりは楽しいよ。

渋谷の駅にさしかかる

2007年06月17日 09時32分17秒 | Weblog
 雨が降り出してきたようだ。雨音がする。

      *

 Nさんと電話をする。ああ、恥ずかしいと思うほど、昔日のとうに枯れてしまった愛を、告白される。ずっと若い頃の話だ。もはや歯に衣を着せない。回想は喋っても聞いても罪はない。

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 どうも年を取ると臆面がなくなる。ふううん、ふううん、そんなことがあったの? げへへげへへ知らなかったなと笑って笑う。それっきり。なにか行動に出たということもない。あたりまえだ、Nさんは教え子だから。あたりさわりのない先生に恋の真似事をしてみたのだろう。

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@ わが色欲いまだ微かに残るころ渋谷の駅にさしかかりけり  斎藤茂吉

 茂吉は単刀直入に<色欲>を表現した。ユーモアかもしれないが。老いてゆくと老いてゆくことが恐ろしくなる。それをわずかでも止めてくれるものが滾(たぎ)り立つ色欲である。わがこころのうちなる炎である。渋谷の駅にさしかかったと表現したが、茂吉は、自分が死ぬ岸辺の駅にさしかかったことを、いささかの苦みをもって告白したのだろう。微かに残っている色欲はただちに生命欲でもある。

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 Nさんの電話でぼくは渋谷の駅を歩く元気をもらったような。
コメント
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