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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

演劇倶楽部「座」~詠み芝居『歌行燈』…観てきました!

2011-10-28 01:44:21 | 能楽
ん~今日はプロの芸というものを堪能して参りました。

「詠み芝居」という、近代小説の文章そのままを台本として演じられる劇『歌行燈』。いろんな意味で驚異的な体験でした。

去年の8月に縁あってこちらの劇団に謡・仕舞・鼓を教えに通うことになったのですが、まあ…いくら未知のジャンルである能の技術を習得して有料公演で披露するためだとはいえ、公演の1年以上も前から稽古を始める、という念の入れ方にまずは脱帽です。

ぬえにとってもリアリズム演劇の役者さんたちとお話するような機会はそうそうあるものではないので、こちらのお稽古はいつも新鮮な驚きに満ちあふれていました。謡や鼓は、これは ぬえたちの専門分野ですから稽古もそう特別なものでもなかったのですが、役者としての人生観とか生活の糧とか…話題はいろいろなことに及んで、毎回3時間くらいは稽古…というか話し合っていたのではないかと思います。

実技は…やっぱり みなさん苦労されておられたようでしたが、とくに謡は難しかったようです。もとより若年者の謡というものは、よほど才能がないかぎり、まず なかなか感心するほどには到達するのは難しいとは思いますが、謡に慣れ親しんでいない若い人にとってはまさに未知の世界。そのうえ鼓を聞きながら地拍子で謡うのだから。

ぬえも、「謡である必要はなくて、プロの役者として謡の“声色”を使う、というので良いと思うし、むしろどれだけ謡に近いか、というよりも、舞台上の芸として“成立している”かどうか、が問題なのでは」というアドバイスをしましたが、彼らの立場に立って考えられるところまで近づいたかも。結果的に、大変良い出来になりました。とくにヒロインの仕舞は相当切れもある素晴らしい出来だったと思います。お稽古の成果が出てよかった~

それにしても、主役の周囲にいる役者さんの微妙な「佇まい」の演技…稽古では座長の壌さんが「空気感」と表現していましたが、それがみなさん上手いこと! ぬえは座頭(按摩)役の佐藤光生さんの演技や、それから ぬえが小鼓を教えた捻平こと内山森彦さんの演技にとくに感心しました。いや、感動と言ってよいくらい。やっぱりこの辺は役者さんの“年輪”がモノを言うようですね。このへんは能楽界も一緒だと思います。

そういえば…この劇の中で一部 肉声ではなく謡の録音が流れるシーンがあるのですが、それは役者さんに指導した ぬえの声ではありませんでした。これは合う程度仕方がない…ぬえには ああいう年輪を重ねた謡のその声はまだ出せません。

このような芸の“年輪”の問題、セリフの間や滑舌、“空気感”に象徴されるような演技の方向性、照明や音響、舞台監督の存在…こうしていろいろな刺激を受けた ぬえでしたが、やっぱりスゴイと思うのは小説の読み込みの深さ…そうして泉鏡花のスゴさでしょうか。

こんなわけで演劇倶楽部『座』の「詠み芝居」『歌行燈』は日曜まで公演が続けられています。ぬえはあさって29日の夕方に再び拝見に伺う予定です。