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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

演劇倶楽部「座」~詠み芝居『歌行燈』

2011-10-15 03:46:30 | 能楽
去年からずっと、1年間を通して謡と仕舞、それから小鼓の稽古をつけて参りました 演劇倶楽部『座』の俳優さんたち。ついに稽古も仕上がって公演を迎えることとなり、ぬえも稽古の見学に行って参りました。

上演作品は泉鏡花の『歌行燈』で、それを「詠み芝居」という独特の形式で上演するのがこの劇団の特徴的なところです。「詠み芝居」とは原作となる小説などを、そのまま上演する…つまり新たに台本を書き起こすのではなくて、ト書きまで含めた原作をそのまま台本とするのです。…圧倒的に精緻な読み込みがなければこれは成立しますまい。

でも、去年はじめてこのお稽古の話を頂いたとき、すでにこの劇団は『歌行燈』を上演していまして、その上演の模様を納めたDVDを渡されました。その録画がすでに衝撃的。…白状しますが、国文学科だった学生時代に ぬえがこの小説を読んだ時は…正直、ちんぷんかんぷんでした。おそらく能と出会ってまだ日も浅い頃だったと思うし、鏡花の、あの何とも言えない擬古体調の文体…いや、擬古体それ自体なら好きなんですけれども…が妖しすぎて、当時のお子ちゃま ぬえにはちょっと無理かな~~?という感じでしたかね。ああ、ダメなら残していいのよ? でも牛乳はちゃんと飲みましょうね~。

それがこのお芝居を見て、ようやく小説全体の構造が見えたのでした。なぜ『東海道中膝栗毛』なのか。なぜ舞われる仕舞が『玉之段』なのか。ちゃあんとそれぞれに意味があったのですね。泉鏡花は知的な人だったとは思うけれど、こんなにも考え抜かれた展開でストーリーを作っていたのか…絶句。…そうして何よりも、この劇団が『歌行燈』を上演するにあたって、そこまで精緻な読み込みがなされている事にまた絶句。能楽師も、この徹底的な読み込みの姿勢は見習わねばならないと思います。

さて、そういうわけで上演間近になって稽古に参加した ぬえでありましたが、まあ、お芝居の稽古なんて参加したのが初めてだったもので、これまた、それはそれは衝撃的でした。能の世界とはまた違うリアリズムの世界…これはこれで とっても面白いものでした。迫力ももちろんあるし、それがまた能の迫力とはちょっと方向性が違う感じが新鮮でした。











とくに感じたのは、主役以外であっても役者さん個人々々が、それぞれそこに佇んでいる、その「たたずみ方」を徹底的に追求しているんですね。お稽古では監督さん(座長の壌晴彦さん…ぬえはセンセと呼んでおります)が指導するのに、それを「空気感」と表現していましたが、それぞれの場面に合わせて、その展開に応じてちょっとした反応をする…あるいはわざと反応しない、ことで、その場面全体を作り上げる、という。能ではツレがこれに相当するでしょうが、能の行き方であれば、ツレはほとんどの場合「無機質」であったり、場面によれば「気配を消す」ことが要求されて、これによって、シテの演技を際だたせる方向に向かうわけです。地謡も囃子方も、最低限以上の動作は厳しく戒められているのも同じ理由に拠るのでしょう。

結果的にリアリズム演劇も能も、どちらもこれらの役者の動作は主役の演技の補強に寄与するのが目的であろうけれども、リアリズム演劇はもっと場面全体の雰囲気を広く捉えているのに対して、能はシテの心理描写を集中的に描き出すことによって、お客さまの個々の心に共感を促す、という手法を採っているのでしょう。主役というのも演劇では場面々々に中心となる人物が違う…あるいは複数存在するのに対して、能はあくまでシテ一人ですね。能が群像劇であることを極端に嫌うのは注意すべき点でしょう。

ともあれ端役に到るまで存在感を追求して場面を構成する、その役者の緊迫感はただならぬものでした。そうしてその演技に対して監督から「それは説明的過ぎる」…などの指示が飛ぶのでした。このへんもちょっと能と違うかな。話が長くなるので割愛しますけれども、やはり演劇では監督・演出家の意図のもとに劇は作り上げられます。能ではシテ中心主義とは言われるけれども、実際には囃子やワキ、狂言にいたるまで、それぞれの役者が曲に対する基本的な捉え方を共有していますね。それから極端に逸脱すれば、申合の時点で共演者からも異論は出るし、まずはその前に流儀の中で…すなわち師匠から修正は加えられる。この共有するべき曲のイメージというものを、若年のうちから地謡の末席に座ったり、囃子方ならば後見として本役の後ろに座って師匠や先輩の演技をつぶさに見て学び、その世界観を共有するわけです。もちろん能でも役者の工夫などが禁止されているわけではないのですが、曲のイメージを共有するのは絶対条件で、それぞれの役者はそれぞれの役割によってそこから逸脱しないように、その曲を最高の作品として仕上げるように工夫を加えるのですね。

さてこの演劇倶楽部『座』の「詠み芝居 歌行燈」ですが、もう最高に素晴らしい出来映えです。そうして役者さんたちも圧倒的な技術力!ぬえも2回は見に行くつもり。どうぞみなさんもご覧になって頂ければありがたいです~

演劇倶楽部『座』サイト

詠み芝居 歌行燈

構成・演出 壤晴彦
音楽・演奏 中村 明一(尺八)
振付 林 千永

キャスト
門附        森 一馬/高野 力哉[ダブルキャスト]
お三重       相沢 まどか
捻平        内山 森彦(コスモプロジェクト)
弥次郎兵衛     真船 道朗(フリー)
饂飩屋の亭主    山 春夫
饂飩屋の女房    輪 眞知子(浅野川倶楽部)/秦 和子[ダブルキャスト]
湊屋女中・お千   五十野 睦子/冨田 美恵子[ダブルキャスト]
湊屋小女・喜野   大坂 優
按摩        佐藤 光生
若衆        忌部 祥
新地の姉さん・語り 溝上 伊都子
宗山・語り     壤 晴彦

公演日程
【金沢】
10月18日(火) 石川県文教会館
【京都】
10月19日(水) 京都府立文化芸術会館
【徳島】
10月20日(木) 徳島県郷土文化会館
【広島】
10月22日(土) 南区市民センターホール
【東京】
10月25日(火)~30日(日) エコー劇場(恵比寿)

料金
ツアー公演料金(金沢、京都、徳島、広島)
(全席自由・税込)
前売4,000円
当日4,500円
学生3,000円(前売当日共)
東京公演料金
(全席指定・税込)
前売5,000円
当日5,500円
学生3,500円(前売当日共)

スタッフ
美術 大田創
音響 寺田泰人(SCアライアンス)
照明 望月太介(A.S.G)
舞台監督 加藤事務所
衣裳 山口徹(東宝コスチューム)
謡・仕舞・鼓指導 ぬえ(観世流能楽師)
宣伝美術 久末冴子
チラシ挿絵 大竹明
企画・制作  演劇倶楽部『座』
コメント
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