「JBpress」に、橋本 久義氏の寄稿『浜松の浄水装置メーカーが「売れる商品」をつくらない理由』で、「大学産業」を取り上げており、中小企業の生きる道の一つと思いますね。
記事では、浜松の浄水装置メーカーの「大学産業」の「緊急時用浄水装置」は、東日本大震災でもTVで取り上げられた自家発電、外部電力でも機能する浄水装置であり、また、避難所用の段ボール製の衝立と、たたみ代わりの段ボール製マットを商品化しているが東日本大震災では、生産が間に合わなかったと。
当方が注目したのは、大学産業の会社方針、経営理念です。
”「大学産業では、創業以来、「あまり売れる商品を作るな」というのが基本方針となっている。これはよく売れる量産タイプの商品を中小企業が製造しても大企業と競争にならないし、その上「売れる商品」は同業者の参入が相次ぎ、市場がすぐに成熟・衰退してしまう。
だから、中小企業はニッチ市場に目を向け、市場は小さくてもライフサイクルが長い商品を狙うべきだという。
市場が小さいというのは、あまり問題にならない。ある商品が○○市で100台しか売れない場合、それだけでは商売にならないが、全国には多くの市町村があるから、その需要が一巡するだけでかなりの月日がかかり、トータルでは十分に採算の取れる台数を販売できることとなる。むしろ中小企業が息長く発展していくのに向いた商品ということでもある。」”
と、ニッチ市場で息の長く発展してゆくリッチな商品を手掛けていることであり、人材育成に注力していることです。
大学産業が飛躍をもたらしたのは、現在、主力商品になっている「緊急時用浄水装置」で、商品化の契機は、二十数年前、東海地震発生の可能性が取りざたされて大騒ぎになっていた時、ある小さな自治体の要求に応えて大学産業が1号機を製作し好評で、県内主要都市からポチポチと注文が来たが、その後、東京国際見本市の事務局から、再三、防災館にぜひ出品要請があり、出展したら、大好評で、代理店希望が殺到したと。
今秋、死去した曽布川社長がみずから代理店希望者を訪問し、デモンストレーションを行い、代理店の従業員全員(社長から掃除のおばさんに至るまで)に「なるほど、良い物だ」と体で埋解してもらうよう努力をし、代理店に指定には、会社の有名度や規模、歴史の長さよりも、その会社の社長が持っている価値観と夢を共有できるかどうかで決めたという。
商品の性格上アフターケアが必要で、信用と丁寧なサービスが何よりも必要だからという理由で。
また、「JBpress」の鶴岡 弘之氏の寄稿『喧嘩上等のカメラ店が「ど素人」に教わった商売の極意』では、栃木県でチェーン展開するカメラ販売店の「サトーカメラ」を取り上げており、大手家電量販店との競合世界で断トツの強さを発揮していると。
「サトーカメラ」の佐藤社長は、「フィルムカメラとデジカメは共存していく」というメーカーの理論を信じられず、販売店の究極は、”「思い出をきれいに残す」”ことが使命とし、効率性より顧客重視・満足度を第一の経営方針を変えた店舗運営で高収益を上げていると。
中小企業にとっては、ニッチな市場でも独自性・専門性のリッチな商品・サービスが活きる道の一考と思いますね。
本ブログ「アップルと日本家電メーカーの相違・・・先見・革新・独自性か販売見込みかの違い」で、
元・三洋電機の黒崎正彦氏がスティーブ・ジョブズ氏に音楽コンテンツを配信するビジネス案を提案したが三洋電機の井植敏会長から拒絶された話、ソニーで、世界初の無線TVエアボード、ロケーションフリーTVなどを開発した前田 悟氏がソニーとアップルとで共同事業化の好機を逸した話をうけ、
”「三洋電機の黒崎正彦氏、ソニーの前田 悟氏の現場は先見性・革新性・独自性で新たな市場開発・創造の提起であるが、経営幹部には、過去の延長線上での販売見込み・販売規模が第一であり、新たな市場開発についての必要性は認識しているが、会社経営の安定を考えると直面の販売額であり、新たな取り組みは二の次になるでしょうね。
世の中、生成発展には新陳代謝が不可欠とは分かっているが自ら現状を否定し変身(変革)できないの世の常です。」
と書きました。
要は、大企業は、四半期単位に好決算を計上するのが第一優先で、新規事業の取り組みの必要性は理解できているが、新規事業より、現行の商品・サービスでの安定性が計算できる決算至上となり、新規事業、新商品には二の次になるのです。
東芝が特許を保有いわれるが、ダイソン社の掃除機は国内市場にインパクトを与え、従来の紙パック交換の掃除機市場に変革を与え、温風機能を持つ扇風機も注目されています。
福島原発事故で注目されたロボットの製作のアイロボット社の掃除ロボットも新たな市場開発しており、国内の家電メーカーも無視できなくなってきていますね。
多分、国内の家電メーカーにとっては、ダイソン社の掃除機、アイロボット社の掃除ロボットの存在は留意していたと思うが、大企業にとっては、販売規模も重要な要素で、新規製品の販売見込み数字より、既存商品群での販売見込み数字が経営トップには確実と思えるのでしょうね。
このことが、既存製品の改良で競争することになり、路線変更が出来にくいのです。
大学産業の「ニッチ市場に目を向け、市場は小さくてもライフサイクルが長い商品を狙うべきだ」という経営手法は、ある程度の販売規模が宿命の大企業には手を出しにくい手法で、マーケッテイングし、商品開発し、販促する大企業にとって、「サトーカメラ」の顧客重視・満足度の販売手法は、非効率に思えるのでしょうね。
TV分野で、国内家電メーカーは韓国勢力の後塵を拝し、事業縮小に追い込まれているが、韓国勢力も毎年、販売数量を伸ばし続ける事は、現行製品群で安定的な販売規模を確保し続けることになり、新規分野で新規製品が手薄になる可能性はありますね。
アップルは、PC分野から個電分野に方向転換できたのは、スティーブ・ジョブズ氏という天才トップがいたことと、事業転換せざるを得なかった背景と、事業規模がそこそこであったことも要因でしょうね。
大企業ほど既存製品による販売規模を捨てて、新規分野に方向転換することは、難しいのも現実でしょうね。
ただ、言えることは、既存製品だけに拘っていれば、ある段階で、下落傾向になるのは間違いないことです。
「参考」
前田悟=金沢工業大学 客員教授の「Tech-on]への寄稿『【追悼】ソニーとの協業を模索したJobs氏』