地域循環共生圏概論Ⅳ

2019年12月30日 | 日誌


作成日:2019.12.30|更新日:2019.12.31
地域循環共生圏概論Ⅳ
「負の遺産」から愛される発電所

地域と共生する瀬戸内Kirei太陽光発電所
先回に続き、環境ビジネスの『地域循環共生圈とビジネ
スチャンス』から、
かつて"東洋一の塩田"と言われた岡
山県瀬戸内市の錦海塩田跡地に、日本最大級の太陽光発
電所
「瀬戸内 Kirei太陽光発電所」が18年10月稼働。
エネルギーと税収を生み、塩田の貴重な生物を育み、地域
の安全を守る事例--瀬戸-
内市長・武久顕也氏とのインタ
ビューを考えてみる。

瀬戸内 Kirei太陽光発電所
官民連携の壮大なプロジェクト
瀬戸内市のほぼ中央、瀬戸内海に而して広がる、総面積
約 500ヘクタールの広大な錦海塩田跡地に、日本最大級
となる 235MWの太陽光発電所を建設。この計画の本格着
工が14年11月に、GEエナジー・フィナンシャルサー
ビス、東洋エンジニアリング、中電工、くにうみアセッ
トマネジメントの4社が出資する特別目的会社(SPC)『
瀬戸内 Kirei未来創り合同会社』が14年11月に設立
され、建設と発電事業が決まる。同事業は、日本の再生
可能エネルギー発電事業として、過去に類を見ない大規
模である。
資金調達が大きな課題で、日本のエネルギー事業の資金
調達法として当時まだ一般的ではなかった、ノンリコー
の事業
を実現。その後の資金調達の在り方に可能性を
広げた好事例となる。プロジェクト実現にあたり、強い
リーダーシップを発揮した瀬戸内市長の武久顕也氏は、
瀬戸内市の出身で、塩田近くの小学校に通っており、塩
田が使われなくなり、一部産廃処分場になっているのを
見て、何とかしたいと思い就任した年に、土地を所有し
ていた民間企業が破産し、“負の遺産" と言われるのを
市が引き取り、事業化に向けて動いてきたと話す。

当時、錦海塩田跡地は広大で日射量が良好な反面、堤防
で仕切っても周辺から雨水が流れ込むなど、土地の整備
にはコストがかかる。土地を引き取った時から太陽光発
電のアイデアはあったが、採算の合う話ではなく、どこ
も見向きもしなかった。 FIT制度ができたことでキャッ
シュフローが乗り実現したが、そういう意味では、かな
りリスクの高い挑戦であった。同事業は、瀬戸内市、民
間企業、金融機関が協力し、実現した事業。官民が連携
し、長く放置されてきた塩田跡地を、クリーンなエネル
ギーを生み出す場所として甦らせ、夢のある、壮大な事
業だった。

地域の安全安心も守る
現在は、地元の小学生から大学生、海外の留学生、観光
客なども見学に訪れる、瀬戸内の名所の1つとなってい
る『瀬戸内 Kirei太陽光発電所』。観光だけでなく、安
全安心面、実質的な経済面での恩恵もかなりあると話す。
太陽光発電所の建設にあたり、『瀬戸内 Kirei未来創り
合同会社』では、排水路整備や堤防補強工事など、地域
を災害から守るための安全安心事業に注力。15年には、
浸水リスク軽減の目的で、塩田跡地内を東西に走る約2.
5kmの中央排水路の上流部分 400mについて河床掘削
拡幅工事を行い、瀬戸内市に引き渡す。翌16年には、
塩田跡地内の排水能力向上と、市による既設ポンプ故障
時のバックアップとして排水ポンプを1台増設。さらに、
停電時の備えとして非常用電源も新たに設置し、市に寄
付した。また、大地震によって土手部が液状化し、沈下
する可能性のあった錦海湾堤防を、地下深くの岩盤層ま
で届く長い鋼管杭を打ち込むことで補強。大地震で土手
部分が沈下しても鋼管杭は沈下せずに残り、太陽光発電
所だけでなく近隣の住居や財物を津波や高潮から守る。
これは、海水が流入する構造を維持することで、希少な
動植物の生息する塩性湿地環境も保全することができる
工法で17年3月に工事を完了。東日本大震災後で、特
に海に対する安全対策への意識が強かったが、約32億
円をかけたことで結果的に農地や宅地にも恩恵を受ける。
際に昨年7月の豪雨では、河床掘削拡幅工事を施した
中央排水路に水が流れ、排水ポンプもフル稼働させたこ
とで、以前ならば水浸しになっていたであろう干拓地の
畑地への被害は皆無だった。

市の優先度に応じ、資金を活用
太陽光発電所ができたことの経済的な恩恵という意味で
は、税外収入としての借地料と固定資産税が、市にとっ
て非常に資重な収入源となっている。瀬戸内市では、そ
の借地料の6割を安全安心対策に積み立て、4割をまちづ
くりに使っていく計画を立てている。まちづくりに関し
ては、観光地へ繋げていくため、堤防沿いを通る道路を
新しく作ったり、コミュニティセンターの充実や駅前整
備などの事業に資金を活用。6割については、いざとい
う時のための災害対策、堤防やポンプの維持管理にあて、
万全の対策で安全安心を維持していく。これらの資金は
単にそのまま使うのではなく、これを原資として補助金
を獲得したりと、レバレッジを効かせ、より大きな事業
にしていくような活用のしかたをしている。例えば、
境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金『公共施
設等先進的C02排出削減対策モデル事業』を活用し、
公共施設における地域間電力融通によるエネルギーの
地産地消』に取組む。同事業では、公共施設における電
力の自給自足を目指し、太陽光発電による再生可能エネ
ルギーを活用した自立・分散型エネルギーシステムを導
入。あわせて空調設備をはじめとした省エネ、空調機の
遠隔監視機能を活用した地域全体のデマンド制御を行う
ことで、エネルギー需給バランスの最適化管理を行う。
さらに、地域内、あるいは地域間で電力を融通し、エネ
ルギーを地産地消。

エネルギーロスを極限まで抑え、価格インセンティブの
導入で、自立・分散型エネルギーシステム内で自律的に
需給のバランスをとるシステムを構築。 FITに依存しな
い再エネの導入促進を目指していく。環境への取組みは、
まちのイメージをアップさせていく上で非常に重要かと
思う。瀬戸内市の有利な部分は、『瀬戸内 Kirei太陽光
発電所』があることで、実際にまちづくりに活用できる
資金があり、それを、市の優先度に応じて活用できる部
分だと思うと同市長と話している。


環境と開発の両立を
『瀬戸内 Kirei太陽光発電所』は、自然環境保全との両
立を目指して整備された『錦海ハビタット』が併設され、
自然との共生を実現した発電所としても注目度が高い。
錦海塩田跡地では、71年の塩田事業廃止の後、40年
以上にわたり、雨水と海水の混ざり合う塩性湿地・ヨシ
原・水路・クリーク(小川)・ヤナギ林などの混在する、
独特の環境が形成されてきた。
この環境を可能な限り保
全し、生息る動植物への影響を最小限に抑え、地域にふ
さわしい風景を創出するため、メガソーラープロジェク
トでは、保全する塩性湿地帯のうち約16ヘクタールに
『錦海ハビタット』を整備している。
この『錦海ハビタット』には、地域環境の潜在能力を活
用し、その地域でなければ成しえない環境を保全・割出
し、人を含めた生き物にとって健全な生態系を維持する
デザイン手法である、エコロジカル・ランドスケープ手
法が使われている。

ヨシが生育する水辺環境を残しながら、クリークや池を
人工的に作り、もともと現地で生育していた樹木を苗木
から育て、在来種を主体とした植栽を行う。特に、希少
な猛禽類の保護を目的に、猛禽類の餌となる小動物の生
息しやすい環境を創り出している。長い歴史をもつ塩田
跡地で、様々な方の想い、これまでのいきさつに配慮し、
開発一辺倒ではなく、最大限、環境と開発の両立をはか
る必要があると考える。そこで、事業者と市役所と県で
自然保護協定を結び、開発を進めていく。


クリーンなエネルギーを創り出すだけでなく、堤防や排
水ポンプの整備で市民の安全安心を守り、自然環境にも
配慮した太陽光発電所。そのC02削減効果は、年間約
192,000トン(瀬戸内市のC02排出量の約半分)
となっている。施設の建設にあたっては、市が事業者と
一緒になり説明会に回り、行政が積極的に関わることで、
市民への安心感を与えた。こうした全ての取組みが実を
結び、発電所完成後、地域住民との間に問題は何もない。
反対に、市の観光案内に『瀬戸内 Kirei太陽光発電所』
が紹介されているなど、地域に愛される太陽光発電所と
なっている。日本最大級の太陽光発電所を、塩田跡地に
建設する。瀬戸内市が民間と手を組み、成し遂げた挑戦
は、まちにクリーンなエネルギーを生み出し、貴重な自
然環境を育み、市民を災害から守り、未来のまちづくり
への財源となって、“太陽のまち”として瀬戸内が輝き
続ける源となっていると話す。

この好事例は、①ノンリコース・ローン制度の活用、②
 FIT(固定価格買い取り)制度の活用、③排水路整備や
堤防補強工事など、地域を災害から守るための安全安心
事業に注力しレジリエンス能力を高め、④環境省の二酸
化炭素排出抑制対策事業費等補助金の活用が背景にある
ことが特徴であることを確認した。さて、次の事例とし
て、岡山県笠岡市の『地域社会と共生する水上太陽光発
電』を取り上げる。

                  この項つづく

【エピソード】


趙弼『評史』にある「前門に虎を拒ぎ後門に狼を進む(
表門で虎の侵入を防いでいるときに、裏門からは狼が侵
入してくるの意味)」から。
前後から虎と狼に挟み撃ち
されては、勇者であってもたち打ちできないことをさす。
また、「一難去ってまた一難」と意味が通じ、窮地に陥
る状況を表す。新年を迎えに当たり、年頭の言葉に相応
しいものとして先ず頭に浮びました。虎は「超少子高齢
化社会」であり、狼は、「地球温暖化}による災害の激
化によるリスク逓増です。典型例は少子化問題、東洋経
済ONLINEの『出生数90万人割れの衝撃』(脚注参照)
によれば、その原因として、①格差社会➲②未婚率の増
加/晩婚化➲③教育費の高騰➲④少数精鋭主義➲⑤心理
的抑圧が順位別に挙げられています。やはり、①格差社
会(巨大資本が振りまく価値観)の影響が大きい外化要
因でしょう。ことはこれだけでないから大変なことにな
ります。そしてその帰結として『前進!』が年頭の言葉
に集約されることになりました。文末に、皆々様方のご
健勝とご多幸を心からお祈り申し上げます。

【脚注及びリンク】
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  1. 「負の遺産」から愛される発電所へ環境ビジネス
    2020年冬季
  2. ESG地域金融』で地域を元気にする 環境ビジネ
    ス 2020年冬季
  3. 日本人を直撃する「人口急減」の切実すぎる未来、
    東洋経済オンライン 、2019.10.27
  4. 賀県に根づく『三方よし』の経営を実現, 環境
    ビジネス,2020年冬季
    号  
  5. 米国 風力発電2019年水力を抜いて一躍トップに:
    ラストワンマイル23、ごくとうごくらく 2019.02.
    24
  6. 2070年平均気温が4℃上昇した世界 ごくとう
    ごくらく 2019.12.09
  7. 「よくもそんなことを」グレタ・トゥーンベリが
    気候サミットに登壇 スピーチ全訳, BuzzFeed,
    2019.09.24
  8. 気候変動が生む、新たな「アパルトヘイト」,GNV,
    2019.12.15
  9. ほぼ日刊イトイ新聞 - 親鸞 Shinran、2007.10.12
  10. NHKスペシャル 被曝の森2018 見えてきた
    “汚
    染循環” 赤かぶ 2018.02.25 
  11. 天正地震 Wikipedia
  12. 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia       

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