
地図がないので
夢の中でいつも迷っている。
長いあいだうずくまっていると膝が痛くなる。
そうして十年二十年が過ぎてゆく たぶん。
時をはかる半透明の巨きな桝の表面にいろんな人びとの顔が映り込んでいる。
ほらほら あれを見ろよ。
赤い帽子をかぶった少女が
こっちを見ながら愉しそうに笑っている。
その隣で 髪のうすいおじさんが身を折り曲げて吐いている。
まるで古時計の短針と長針のように
その二つのイメージは
重なるように見えてすぐに離れてゆく。
ゆゆゆゆ
ゆゆゆ
ゆゆ
ゆ
夢
め
めめ
めめめ
めめめめ
ぼくのこころの奥深くにしまわれた白紙の上に
足跡が点々と残っている。
だれか出ていった人がいる。
一人や二人ではなく もっと大勢の人が・・・。
出ていった人を忘れて ぼくは懲りずにふたたび夢見る。
ノブのないドアにガツンと頭をぶつける。
セクシーなロングスカートのお姉さんのお尻を撫で回す。
そして水面に浮かびあがるように眼を覚ます。
ここはどこだろう。
ぼくはいったいどこへ出たのだろう?
自問自答しながら はじまった一日のへりを見あげる。
ゆゆゆゆ
ゆゆゆ
ゆゆ
ゆ
夢
め
めめ
めめめ
めめめめ
ゴミの吹き溜まりのような場所から
ぼくは夢という表意文字をひとつ拾いあげてポケットに入れた。
そうしてそれから何十年も歩きつづけてきたんだ。
「疲れたなあ 疲れた」なんて呟きながら。
家畜の運搬車でいったいどこへとはこばれていくんだろう。
まだしばらくはひとりで歩ける。
春の空から秋の空へと弓なりにかけられた夢の浮き橋を渡って。
つぎの橋が向こうにみえる。
あの橋を渡って いずれこの世から出てゆくのさ。
あたりまえすぎるので 人は気づかないふりをしている。
こんにちはとさよならの距離は遠いようで
ほんの一歩なのかもしれない。
すぎてしまえば。
――すぎてしまった人にとっては。
※マイミク、ケン(ちゃん)の日記に触発されて書いた詩です。