(タイトルは本書冒頭に掲げられた箴言)
■「パリ・ロンドン放浪記」ジョージ・オーウェル(小野寺健訳岩波文庫 1989年刊)レビュー
いや~、おもしろかったですぞ!(^^)!
圧巻の一語といえるような章が、いくつもある。
稀有な人間研究の書。
《インド帝国の警察官としてビルマに勤務したあとオーウェル(1903-50)は1927年から3年にわたって自らに窮乏生活を課す。その体験をもとにパリ貧民街のさまざまな人間模様やロンドンの浮浪者の世界を描いたのがこのデビュー作である。人間らしさとは何かと生涯問いつづけた作家の出発にふさわしいルポルタージュ文学の傑作。》(表紙紹介文)
ルポルタージュ文学の傑作とはか掛け値なしの評価だと思えた。
12章~14章あたりは、とくにすごい。
Xホテルという安ホテルの皿洗いとしてはたらく主人公の日常が、ことこまかに綴られている。最下層にまで落ちたというのではなく、オーウェルはそういう社会に、いわば命がけで潜入したのだ。
人間はこういう生活にたえられるものなのか!?
本書の内容についても引用したいが、長くなってしまうので辞めておこう。
少し表現の誇張もふくまれているだろう。しかし、オーウェルの観察眼は鋭利きわまりない。
その日の食にも困る極貧と、過酷な労働。
社会福祉など存在しなかった「昨日までの世界」には、こういう半地獄が、世界のいたるところにあったのだ。
どん底の生活の中から見えてくる、ぞっとするような人間像。
貧乏話というのはおもしろい・・・とあるとき気が付いた。はじめは山本周五郎の「青べか物語」だったかもしれない。そしてすぐに「季節のない街」を読み、貧乏話にはまった。
しばらくして、超低空飛行の漫画家、つげ義春の中で、すばらしい貧乏話を見出すことになる。
私小説作家たちの小説も、そういう眼で眺めるとおもしろいものがあるだろう。
地獄とはこの世のことであり、貧乏のことなのである。それでも人間は、可能なかぎり生にしがみつき、むさぼろうとする。
本書は哲学書20冊分、いや30冊分にも匹敵する内容をもっている。観念的な“議論”の書ではなく、実例集なのだから。
肝腎なのは、彼はなにをいったか、ではなく、どう生きたかなのだ。
宗教は民衆の阿片といういい方があるが、最下層の人間の大半は、キリスト教を愚弄し、憎んでさえいる。そこもまた階層社会だということを骨身にしみて知っているからだ。
人間とはなにか、人間らしさとはなにか?
オーウェルののちの文学は、ここから立ち上がってくる。
「動物農場」にせよ「1984年」にせよ、ここに出発点があるのだ。のちには同じくルポルタージュの秀作「カタロニア賛歌」を書いている。
本書は十数年前に一度買ったが、行方不明となっていたため、先日買い直した。
期待した通り、いや期待した以上の出来映えだと高く評価しておきたい。
評価:☆☆☆☆☆
■「パリ・ロンドン放浪記」ジョージ・オーウェル(小野寺健訳岩波文庫 1989年刊)レビュー
いや~、おもしろかったですぞ!(^^)!
圧巻の一語といえるような章が、いくつもある。
稀有な人間研究の書。
《インド帝国の警察官としてビルマに勤務したあとオーウェル(1903-50)は1927年から3年にわたって自らに窮乏生活を課す。その体験をもとにパリ貧民街のさまざまな人間模様やロンドンの浮浪者の世界を描いたのがこのデビュー作である。人間らしさとは何かと生涯問いつづけた作家の出発にふさわしいルポルタージュ文学の傑作。》(表紙紹介文)
ルポルタージュ文学の傑作とはか掛け値なしの評価だと思えた。
12章~14章あたりは、とくにすごい。
Xホテルという安ホテルの皿洗いとしてはたらく主人公の日常が、ことこまかに綴られている。最下層にまで落ちたというのではなく、オーウェルはそういう社会に、いわば命がけで潜入したのだ。
人間はこういう生活にたえられるものなのか!?
本書の内容についても引用したいが、長くなってしまうので辞めておこう。
少し表現の誇張もふくまれているだろう。しかし、オーウェルの観察眼は鋭利きわまりない。
その日の食にも困る極貧と、過酷な労働。
社会福祉など存在しなかった「昨日までの世界」には、こういう半地獄が、世界のいたるところにあったのだ。
どん底の生活の中から見えてくる、ぞっとするような人間像。
貧乏話というのはおもしろい・・・とあるとき気が付いた。はじめは山本周五郎の「青べか物語」だったかもしれない。そしてすぐに「季節のない街」を読み、貧乏話にはまった。
しばらくして、超低空飛行の漫画家、つげ義春の中で、すばらしい貧乏話を見出すことになる。
私小説作家たちの小説も、そういう眼で眺めるとおもしろいものがあるだろう。
地獄とはこの世のことであり、貧乏のことなのである。それでも人間は、可能なかぎり生にしがみつき、むさぼろうとする。
本書は哲学書20冊分、いや30冊分にも匹敵する内容をもっている。観念的な“議論”の書ではなく、実例集なのだから。
肝腎なのは、彼はなにをいったか、ではなく、どう生きたかなのだ。
宗教は民衆の阿片といういい方があるが、最下層の人間の大半は、キリスト教を愚弄し、憎んでさえいる。そこもまた階層社会だということを骨身にしみて知っているからだ。
人間とはなにか、人間らしさとはなにか?
オーウェルののちの文学は、ここから立ち上がってくる。
「動物農場」にせよ「1984年」にせよ、ここに出発点があるのだ。のちには同じくルポルタージュの秀作「カタロニア賛歌」を書いている。
本書は十数年前に一度買ったが、行方不明となっていたため、先日買い直した。
期待した通り、いや期待した以上の出来映えだと高く評価しておきたい。
評価:☆☆☆☆☆