二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

森山大道写真集「NORTHERN」のことなど

2014年10月29日 | 写真集、画集など
森山大道について、なにか書きたくなった。
以前に書いたことのくり返しになりそうな予感があるが、まあ、よしとしておこう。
わたしの偏見と独断に満ちた、大道さんへのささやかなオード(^^)/
その何回か目の試みである。

《三ヶ月という期限つきで札幌でアパートを借りたぼくは、その間、雨降りでさえなければ(雨の日にも撮るべきだった)、とにかく自分の決めとして連日カメラを持って外出した。田本研造たちの意志と困難さには比すべくもなかったが、バスに乗り電車に乗って北海道のあちこちを写し歩いた。まれに一泊となることもあったが、ほぼ連夜、重い足をひきずってアパートに辿り着き、寒い部屋でひとり食パンをかじりウィスキーをなめ、また得体の知れない憂鬱にとりつかれて長い夜を苛々と過ごしていた。》(巻末に収録の「札幌」より引用)

撮影行から19年たって、森山さんの北海道写真群が姿をあらわす。
それが写真集「NORTHERN」で、図書新聞から刊行された。
奥付をみると、2009年6月25日とある。それと前後して、札幌の宮の森美術館で大規模な写真展が開催され、大きな反響を呼んだようだ。

三ヶ月のあいだにいったいどれほどの写真が撮影されたのだろう。
一日10本撮影したとして90日間で3万2千カット。
いまのデジタルならいける数字かも知れないが、モノクロだし、当然現像プリントという手間がかかる。

スランプに陥ったとき、写真家はやっぱり、撮影することによって、そこから脱出するしかない。
寒々しくだたっ広い蒲団部屋のようなアパートの一室にみずからを追い込め、鬱々としながら、連日撮影を続けている森山さんを想像すると、なんだか鬼気迫るものがある。
「発表の機会がなかった」「ぼく自身が撮ったことを半ば忘れていた」「自分の写真の過去は振り返らないのが習性となっている」
そういう意味のことをどこかで読んだ記憶がある。






















そして19年という時をへだてて、写真集「NORTHERN」に収められた写真が姿をあらわす。
それは考えただけでも衝撃的な出来事であろう。
われわれ日本人にとって、とりわけ北海道に暮らす人たちにとって。
森山さんの眼とカメラがとらえた像の彼方から、失われたとおもわれた北海道の20年前が浮上してきたのだ。

「写真って、けっこうすごいことができるんだぞ」
写真集「NORTHERN」のページをめくりながら、わたしは興奮にかられたことを、よく覚えている。
群馬に住むわたしにとって札幌は遠すぎるが、宮の森美術館の会場にいったら、その驚き、衝撃はさらに大きかっただろう。


「NORTHERN」はこのあと、2と3がひきつづき刊行され、全3巻として書店にならんでいる。
森山大道は決して過去の写真家ではなく、いまでも精力的に撮影しつづけ、毎年数冊の写真集が刊行されている。
こういう人は、ほかには荒木経惟しかいない。
大西みつぐさんのような写真家すら「森山さんは雲の上の人」というくらいだから、わたしのような一介のアマチュアからみたら、神様と区別がつかない(笑)。



森山さんの写真集はたくさんもっているけれど、この「NORTHERN」は「サン・ルゥへの手紙」とともに、わたしが愛してやまない一冊。
撮影への気力が衰えたとき、またページを繰る。
そしてそこから、それこそ「得体の知れない」エネルギーを汲み上げる。
荒木さんはご自身ガンを患い、また片目を喪失しながら片肺飛行のような撮影を継続しているモンスターのようなフォトグラファーだけれど、森山さんは、それ以上にパワフルだ。

森山さんの“教え子”のような写真家が大勢いる。
森山さんの授業を受けたり、作品を見てもらったりしながら、フォトグラファーとして独り立ちしていったような人たちを、わたしですら5-6人は知っている。
その中で、ストリートスナップでは中藤毅彦さんがイイ仕事をしていらっしゃるようだ、ということも(^^;)


ぼろアパートに立てこもり、90日間、ほぼ毎日のように、写真だけを撮って暮らす。
このとき、森山さんは写真の鬼となったのだろう。土門拳とはまったくタイプのことなる、途轍もない鬼だけれど。

そうせずには、いられなかった!
天才とは、そういった宿命のもとに生まれてくる人なのであろう。

引用した「NORTHERN」の中の最後の一枚をもう一度見直して欲しい。
なんのキャプションもないけれど、左下に映っているのは、紛れもなく“このとき”を撮っていた森山さんご自身である。手にしているのは、この際の機材、ペンタックスのブラックボディではないだろうか?



※引用は「サン・ルゥへの手紙」を除き、すべて写真集「NORTHERN」から、コンデジで撮影している。フレーミングはかなりアバウトだが、意識的にそうしてあることをお断りしておく。

※「札幌」と題したエッセイは「犬の記憶・終章」(河出文庫)にも収録されている。

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