
(夕景 2014年7月)
1 詩集という光の束
故郷へのまなざし
故郷からのまなざし。
そのあわいに 微かな光の束がひろがっている。
あれはなんだろう。
あれはなんだろうと思いながら
散歩をしている。
意味があるような
ないようなご近所の散歩。
今日は中也がぼくのかたわらに寄り添っている。
中也の「朝の歌」が。
ふうっと吐息をもらすと
そこに侘びしそうな中也がいる。
薄汚れたハンカチを口にあてて
帽子をかぶった中也がこっちを見ている。
今年はいつもの年とずいぶんちがうな
歩けど歩けど
朝からだれともすれ違わない。
今日は中也のあとにくっついて故郷を一巡しよう。
つまり文庫本一冊を
むりやりポケットにねじこんで。
詩集という 光の束を。
2 大事なあれを
アマガエルがケロケロ ゲロゲロ鳴いている。
さっきからずうっと 鳴いている。
きっと捜しものをしているのだ。
「どこへいったんだろう
ぼくたちにとってとても大事なあれは」
だれか知ってはいませんか
大事なあれを
だれか・・・。
3 乳房だったらいいのに
打ち返したはずの軟式のテニスボールが
いつのまにかぼくの手にもどっている。
そのボールは草色ということばのように
とてもよく弾む。
それを右手で握りしめながら
女の子の乳房だったらいいのにと 思い
人っ子ひとりいない公園の木々の梢をふりあおぐ。
よーし 打ち返してやろう
もう一度。
十代のあの日の きみに向かって。
4 記憶の扉
ことばの中の急勾配で足をすべらせて転ぶ。
よくあることだ 詩を書いていると。
いてて とつぶやきながら
その男は原稿用紙から外へ出る。
外は土砂降り。
通行人があわてて走ってゆく。
こんな景色の端っこまでくるんじゃなかった。
ことばの中で立ち上がった男は
ズボンをパンパンと叩いて
人には見えない坂道へつづく扉を閉ざす。
あんなに鮮やかだったはずの
記憶の 扉を。
1 詩集という光の束
故郷へのまなざし
故郷からのまなざし。
そのあわいに 微かな光の束がひろがっている。
あれはなんだろう。
あれはなんだろうと思いながら
散歩をしている。
意味があるような
ないようなご近所の散歩。
今日は中也がぼくのかたわらに寄り添っている。
中也の「朝の歌」が。
ふうっと吐息をもらすと
そこに侘びしそうな中也がいる。
薄汚れたハンカチを口にあてて
帽子をかぶった中也がこっちを見ている。
今年はいつもの年とずいぶんちがうな
歩けど歩けど
朝からだれともすれ違わない。
今日は中也のあとにくっついて故郷を一巡しよう。
つまり文庫本一冊を
むりやりポケットにねじこんで。
詩集という 光の束を。
2 大事なあれを
アマガエルがケロケロ ゲロゲロ鳴いている。
さっきからずうっと 鳴いている。
きっと捜しものをしているのだ。
「どこへいったんだろう
ぼくたちにとってとても大事なあれは」
だれか知ってはいませんか
大事なあれを
だれか・・・。
3 乳房だったらいいのに
打ち返したはずの軟式のテニスボールが
いつのまにかぼくの手にもどっている。
そのボールは草色ということばのように
とてもよく弾む。
それを右手で握りしめながら
女の子の乳房だったらいいのにと 思い
人っ子ひとりいない公園の木々の梢をふりあおぐ。
よーし 打ち返してやろう
もう一度。
十代のあの日の きみに向かって。
4 記憶の扉
ことばの中の急勾配で足をすべらせて転ぶ。
よくあることだ 詩を書いていると。
いてて とつぶやきながら
その男は原稿用紙から外へ出る。
外は土砂降り。
通行人があわてて走ってゆく。
こんな景色の端っこまでくるんじゃなかった。
ことばの中で立ち上がった男は
ズボンをパンパンと叩いて
人には見えない坂道へつづく扉を閉ざす。
あんなに鮮やかだったはずの
記憶の 扉を。