goo blog サービス終了のお知らせ 

二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

詩集という光の束 ほか短詩3編(ポエムNO.3-74)

2020年06月11日 | 俳句・短歌・詩集
   (夕景 2014年7月)



1 詩集という光の束

故郷へのまなざし
故郷からのまなざし。
そのあわいに 微かな光の束がひろがっている。
あれはなんだろう。

あれはなんだろうと思いながら
散歩をしている。
意味があるような 
ないようなご近所の散歩。

今日は中也がぼくのかたわらに寄り添っている。
中也の「朝の歌」が。
ふうっと吐息をもらすと
そこに侘びしそうな中也がいる。

薄汚れたハンカチを口にあてて
帽子をかぶった中也がこっちを見ている。
今年はいつもの年とずいぶんちがうな
歩けど歩けど

朝からだれともすれ違わない。
今日は中也のあとにくっついて故郷を一巡しよう。
つまり文庫本一冊を
むりやりポケットにねじこんで。

詩集という 光の束を。



2 大事なあれを

アマガエルがケロケロ ゲロゲロ鳴いている。
さっきからずうっと 鳴いている。
きっと捜しものをしているのだ。
「どこへいったんだろう
ぼくたちにとってとても大事なあれは」

だれか知ってはいませんか
大事なあれを
だれか・・・。



3 乳房だったらいいのに

打ち返したはずの軟式のテニスボールが
いつのまにかぼくの手にもどっている。
そのボールは草色ということばのように
とてもよく弾む。
それを右手で握りしめながら
女の子の乳房だったらいいのにと 思い
人っ子ひとりいない公園の木々の梢をふりあおぐ。
よーし 打ち返してやろう
もう一度。
十代のあの日の きみに向かって。



4 記憶の扉

ことばの中の急勾配で足をすべらせて転ぶ。
よくあることだ 詩を書いていると。

いてて とつぶやきながら
その男は原稿用紙から外へ出る。

外は土砂降り。
通行人があわてて走ってゆく。

こんな景色の端っこまでくるんじゃなかった。
ことばの中で立ち上がった男は

ズボンをパンパンと叩いて
人には見えない坂道へつづく扉を閉ざす。

あんなに鮮やかだったはずの
記憶の 扉を。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 笑える音楽はいかがでしょう | トップ | 「インベンションとシンフォ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

俳句・短歌・詩集」カテゴリの最新記事