二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

物語はそこからはじまる 2021-14 (8月20日)

2021年08月22日 | 俳句・短歌・詩集
    (群馬県中之条町)



風雪にたえてここまで生きてきたもの
そういうものに心惹かれるのはなぜだろう。
黄ばんだり錆にまみれたり
泥がこびりついたりしているものが何であっても

そのかたわらで立ち止まり
いっしょに年をとってきたものを
カメラとレンズを使って撫でさする。
「年をとっちまったなあ おまえ」

幸せというものがわからなくなって
いったい何年になるんだろう?
でも執着はあるし
ぼくはこの八月の空を愛している。

愛しているものはほかにもいくつかあってね
モーツアルトやボサノヴァの音楽が
ときおり空から雷雨のように降ってくる。
それだって風雪にたえてここまで生きてきたものなのさ。

どっこいしょと老人は木陰のベンチに腰をおろす。
ほんのつかのまのつもりが
またたくまに十年が過ぎ去っている。
よっこらっしょ

老人はぼくに似ている。
掛け声をかけないと
そこから立ち上がれないのだ。
立ち上がれたとしても どこにもいきたいところなんてないのだから。

木や草や 植物はすべてそうなのさ。
ほとんど偶然に腰を下ろした場所から動かない 動けない。
うんざりしたってどうにもならない。
しまったな こんなところで・・・。

風雪にたえてきた。
これからも 可能なかぎりそうするだろう。
一本の木 一叢の雑草。
物語はそこで終わり そこからはじまる。

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