二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

堀田善衛「ゴヤ」を読む

2017年03月29日 | エッセイ(国内)
(写真は集英社文庫版。現行本)


いや~、読む前から見当をつけていた通り、堀田善衛「ゴヤ」は膂力に満ちた輝かしい仕事である。単に「おもしろい」ではすまされない、大きな書物である。
「インドで考えたこと」「方丈記私記」しか知らなかったわたしは、頭上から巨石が落ちてきたように、いま驚いている。
歴史、文化そして人間とはなにか?
そういった根元的な問いに、誠意をこめて、全身全霊で応えようとしている。
彼は知識人(とくに「戦後知識人」といわれる種族)が陥りがちな「偽善者」というタイプからはほど遠い存在であるだろう。
著者のこの姿勢に、わたしはなみなみならぬ「誠意」を感じる。



急いでネット上の情報を検索してみると、非常に評価の高い著作がほかにいくつも存在する。
塩野七生の仕事も圧倒的だが、その前を、堀田善衛が歩いていたのだ(=_=) 
アジア・アフリカ作家会議の議長やべ平連などに関わっていたのは知っていたから、国際派・書斎派の文化人=余技で小説を書いている人だと誤解していた。

どうもそうではないらしいと、遅ればせながら気が付いた。
「読みおえるのが惜しい♪」とおもえる書物に、久しぶりに遭遇したのだ。
「ゴヤ」は、
1「スペイン・光と影」、
2「マドリード・砂漠と緑」、
3「巨人の影に」、
4「運命・黒い絵」の4巻からなっている。
その第1巻を読みはじめたばかり。

ゴヤという画家の単純な紹介ではないし、思弁的な思考に傾いた絵画論でもない。いや、それらを内包してはいるが、著者の射程ははるかな地点へと到達している。
ゴヤは本書の最重要なキーワードと解すべきだろう。著者の視野は、古代、中世、近世の全ヨーロッパに及んでいるのだから。
そいう意味でも、極めてスケールの大きな本である。
「ゴヤ」を筆頭とする堀田善衛の仕事は、1970年代とはいわないが、もっとはやく読んでおくべきだったと、後悔の念がさかんに沸き起こる(^^;)




※ここまで書きおえたあと、こんな記事を見つけたので、参考までに引用しておく。 

《こんなに先を読みすすむのが惜しく、できるかぎり淡々とゆっくりと味わいをたのしみたいと思えた本にめぐり会ったのは久々のことだった。「惜読」などという言葉はないだろうが、そういう気分の本である。どうしたらゆっくり読めるだろうかと懸念したくらいに、丹念で高潔なのだ。
 だから紹介にはあまり言葉をつかいたくない。中身といっても、堀田善衛がただひたすら『明月記』を順に読んでいるだけなのだ。が、それが深くて、すごい。なるほど本を読むとはこういうことか、その本を読んだことを綴るとはこういうことかという感慨ばかりがひたひたと迫ってくるのである。
 読めば読むほど、歴史のその日に入っていける。こういう方法があったのかとただただ呆れるばかりだが、あったのだ。》松岡正剛の「千夜千冊」より『定家明月記私抄』の冒頭)

松岡さんのこの評言は、そのまま「ゴヤ」にも当てはまる。

http://1000ya.isis.ne.jp/0017.html


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