二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

静けさへの挨拶 2021-08(8月1日)

2021年08月03日 | 俳句・短歌・詩集

ふとしたはずみでこの地球に招かれたのは
いまから七十年ばかり前。
そのあたりはいまよりずっと ずっと静かだった。
漲っていた静けさのディテールを思い出す。
銀紙につつまれたチョコレートの端を
ほんのひとかけら齧った

・・・というように
甘くて苦い静けさが口のなかにひろがる。
騒々しかった十年。
もっと騒々しかった十年。
使いふるしたデスクと椅子と
きみの帰りを待っていた人のいる部屋。

ケヤキが大きく枝をひろげて
いろいろな野鳥をだきしめている。
その幹の陰にも
きみを待つ人と部屋があって
さっきからなぜかあくびばかりしている。
この世にはきみを待つ人と部屋があった。

騒々しかった十年。
もっと騒々しかった十年。
ところが数年前から 肋骨の奥は空き部屋だらけ。
ほこりっぽいすきま風が通りすぎ
それらは未来からきて
昨日へ もっと昔へとうつむくきみを運んでいく。

ほこりっぽい風に吹かれ
この地でタイトルのない書物となって老い
甘くて苦い静けさを噛みしめる。
にぎやかな足音が聞こえていた方を振りあおぐと
記憶の電車がヒマワリの咲く無人駅で止まっている。
乗り降りの客はとっくに散りぢりになっちまった。

そうだ この静けさに挨拶しよう
自分という存在の気配を始末してさ。

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