二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

救いのない暗い心の風景 ~ヒラリー・ウォー「生まれながらの犠牲者」を読む

2023年12月11日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■ヒラリー・ウォー「生まれながらの犠牲者」法村理絵訳(創元推理文庫 2019年刊新訳)原本は1962年の刊行


読み了えて、どうも後味の悪い作品だなあ・・・と思った。
それに、半分ばかり読みすすめたところで、誰が犯人かの見当がついてしまった。
何度もいうように、ドキュメンタリー(あるいはノンフィクション)のような現実を丹念に描いてゆく作風はもちろん健在。
署長のフェローズが、部下に対してブチギレル場面がある(^^;;)
まあ、名場面といえないことはないが。
彼の作品は300ページ前後(本編は現行版で323ページ)の場合がほとんどだが、ここでフェローズ署長シリーズをもう一回確認しておこう。

1.ながい眠り 1959年
2.Road Block  1960年(未訳)
3.事件当夜は雨  1963年
4.The Late Mrs.D  1962年(未訳)
5.生まれながらの犠牲者  1962年(川口正吉訳で1964年に刊行されていた)
6.死の周辺  1963年

本編は名作「事件当夜は雨」のつぎのつぎに出されている。未訳の作品も多い。
さて、内容紹介はいつものようにBOOKデータベースにお任せしよう♬

《成績優秀で礼儀正しいと評判の13歳の美少女、バーバラが失踪した。前の晩、彼女は生まれて初めてのダンスパーティに出掛けていた。だがパートナーの少年や学校関係者を調べても有力な手がかりはつかめない。警察署長フェローズの指揮による地道な捜査の果てに姿を見せる、誰もが息を呑む衝撃のラスト―。本格推理の妙味溢れる警察小説の名手である巨匠の傑作を新訳で贈る!》

はじめからこの「生まれながらの犠牲者」というタイトルが腑に落ちなかった。
ネタバレじゃないのかなあ、ともかんがえた。
BOOKデータベースによると、
《警察署長フェローズの指揮による地道な捜査の果てに姿を見せる、誰もが息を呑む衝撃のラスト》なのだそうだ。
でもねぇ、わたしには衝撃がなかったのです、犯人の見当が途中でついてしまったので(´Д`)

雰囲気をお伝えするため、こういう部分を拾いあげておこう。

《フェローズは鮮やかな夕焼けに背を向け、ポーチの階段をのぼった。裏口のドアのカーテンごしに、女性の動きが見えた。夕食の皿をテーブルからシンクに運んで水に浸け、そこからガス台に移動してポットを取りあげ、テーブルに戻ってコーヒーを注ぐ。その動きには、痛ましさを感じさせる何かがあった。彼女の物腰には、孤立したこの家にも似た孤独感がただよっていた。目的もなく、務めを果たすだけの人生。意味のある人生は過去のものとなり、この先には死を待つだけ長い年月があるだけだ。》202ページ

《警官は友人にはなり得ない。敵扱いされることはないかもしれないが、どんな事件でも、警官が歓迎されることはけっしてないのだ。》203ページ

甥が刑事をしているため、ある種の親近感がないではないが、警官は国家権力の末端に属す人種という意味で、心底好きにはなれないのはいたしかたないだろう。
ヒラリー・ウォーはエンターテインメントとしての娯楽性より“現実感”を優先したとかんがえることもできる。
峻烈な人間観。罪を着せられそうになり、私生活を暴かれてしまう普通の男たちのあわれさ、いじましさをたっぷり見せられた。

悲観主義的で後味がちょっと悪すぎなので、3点にしようかとかんがえたが、これまでの小説とのバランスやディテールの細やかな仕上げその他の要素を踏まえ、4点としておこう。



評価:☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 着地が決まってさらに傑作と... | トップ | ガールズバイカー »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ミステリ・冒険小説等(海外)」カテゴリの最新記事