二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

企業ミステリの佳品 ~クロフツ「死の鉄路」を読む

2023年12月24日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■F・W・クロフツ「死の鉄路」中山善之訳(創元推理文庫 1983年刊)原本は1932年


この「死の鉄路」は、途中まではとてもおもしろかった(^^♪
どうやらクロフツの生真面目な作風が、わたしにフィットするようである。しかも1932年刊行とは想像できない現代感覚にあふれている。
企業ミステリの秀作である。
一点一画をも疎かにしない“楷書の見事さ”は本編にもあてはまる。鉄道事業の内実は隅々まで緻密に描かれているため、多少息苦しさを感じる読者はいるだろう、わたし自身をふくめて(^^;;)
そこがよくも悪くも持ち味となっている。

鉄道技師としての長いあいだの蓄積。
その蓄積が、十分に発揮され、本編「死の鉄路」の裾野を高い密度で支えている。作者は事件と詐欺行為との関連で図版までもちいて細かく展開してみせる。しかし、すらっと読んだだけでは技術的な問題が十分理解できない・・・そういう読者がいるのではないか、わたしをはじめとして?

付録として地図が添付されているが、この地図がないととてもじゃないが絵解きすることができない。重要なアイテムである。
こちらがそのスキャン画像↓


ネタバレになるため、紹介文は大雑把に、いつも通り。

《「停止! 停止! 線路上に何かある!」複線化工事に従事する見習技師パリーの乗った機関車が停まったときには、すでに黒い塊を轢いたあとだった。そしてそれは彼の上司アッカリーの無残な死体だったのだ……。翌朝の検死審問では事故死の評決が下されるが、フレンチ警部が捜査に乗り出すや、事件の様相は一変する。鉄道技師としての経験を存分に活かした、クロフツ中期の逸品。》東京創元社の内容紹介より

だけど、第16章からあと(謎解き)は、わたし的には十分納得できるものではなかった(^^;;)
明らかに急ぎ足になっている。
急転直下の解決篇、どうもなあ(*ノω`゚)
サスペンス色を交えたあたり・・・第17章「ブレンダ行動をおこす」、第18章「ブレンダ真相を知る」にさしかかると、なぜか鼻じらむものがあった。
クロフツは鉄道事業を知りすぎている。そういった事業のことを子細に描き出しているところに、本編の真骨頂はある。

第13章「ブラインドはおろされていた」までは、5点満点だったのにね。
「クロイドン」「スターヴェル」に比べ、フィニッシュが普通レベルの推理小説になってしまったのは惜しい。



評価:☆☆☆☆

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