雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「太郎と蓑吉」

2015-04-02 | ミリ・フィクション
 漆間太郎(うるしまたろう)は、女房に命令されて里山で茸採りをしていると、何やら五人の子供たちが寄って騒いでいた。
   「君たち、何をしているのだね」
   「ミノムシを捉まえたので、蓑を開いて裸にしているのだ」
   「そんな可哀想なことをするものじゃない」
 見ると、裸にされたミノムシが震えている。
   「おじさんが100円で買ってあげるからもう止めなさい」
   「うん、じゃあこれ10匹で千円」
   「え! 10匹も裸にしたの? もー、仕方がないな、買ってやるなんて言わなけりゃよかった」
   「わーい! 儲かっちゃった。おじさん、また買ってね」
   「もういいよ」

 太郎は、10匹のミノムシを持ち帰り、1匹1匹蓑を縫い合わせてミノムシを入れ、継ぎ目から雨水が入らないようにコーキング材を塗ってやった。 これに糸を付けて、里山の木々の子供の手が届かないところに結びつけた。 
   「さあ、来年の春までゆっくりお休み」

 それから数日後、太郎がまたも茸採りをしていると、どこからともなく呼ぶ声が聞こえた。
   「太郎さん、太郎さん、僕は貴方に助けられたミノムシです」
   「ん? ミノムシが人間の言葉を喋れるのか?」
   「はい、喋れます、助けて貰ったことを蛾ヶ丸城の蛇姫様に話したら、是非お礼がしたいから城にお連れしなさいと言われましたので、お迎えにあがりました」
   「いえいえ、私は当たり前のことをしただけなので、お礼には及びません」
   「うっそー、ミノムシの蓑を縫い合わせてコーキングし、木にぶら下げてくれるのが当たり前のことですか?」
   「そうだよ。それに、蛾ヶ丸城って、なんか恐いし」
   「そんなことを言わずに、僕の背中に乗って下さい、美味しい樹脂酒があるし、蜥蜴(とかげ)と百足(むかで)の舞い踊りもご覧に入れます」
   「わっ、見たくない! 蜥蜴と百足の舞踊り、それに小さな君の背中に乗れないよ」
   「それでは、僕を太郎さんの背中に乗せて下さい、そうしたら同じことでしょ」
   「違うわ?」

 蓑吉の案内で、しぶしぶ蛾ヶ丸城に着くと、古事記に出てくる「八岐大蛇」みたいなお姫様が太郎を迎えた。
   「太郎さん、ようこそいらっしゃいました、その節は蓑吉たちを助けて頂き、ありがとうございました」
   「いえ、とんでもない」
   「里芋の煮ころがしや、山蕗の佃煮など、どうぞご遠慮なく召し上がって下さい、それに舞い踊りなど…」
   「大変お世話になりました、そろそろ、おいとまを…」
   「来られて、まだ1分も経っていないじゃありませんか」
   「あのー、蜥蜴や百足の舞い踊りはどうも…、鯛やヒラメの踊り食いならいいのですが…」
   「そのようなものは、ここにはありません、イナゴや蛙の踊り食いではどうでしょうか?」
   「では、そろそろ、おいとまを…」
   「あのねー、まだ2分ですよ」
   「そうですか、もう3年も経ったような気がしますが」
 太郎が帰りたがるので、蛇姫は仕方なく太郎を返してやることにした。
   「では、お土産を差し上げましょう、この大きなつづらと、小さなつづらのどちらか一つ…」
   「あのー、蛇姫様、何か物語が違うような…」
   「ああ、そうでした。太郎さんにはこの玉手箱を差し上げましょう」
 2分居ただけなのに、お爺さんになるのは「あほらしい」と思い、太郎は玉手箱を帰り道の池に捨てることにした。「ぽん」と投げ捨てると、池の水面がいきなり波立って、池の神が「ずずずず」とせり上がって来た。
   「そなたが落とした玉手箱は、この金の…」
 漆間太郎は、池の神がまだ喋っているのを無視して、さっさと帰っていった。
   「それとも銀の… あれっ! いない」

 その日、池の中から煙と共に鶴が浮かびあがり、蛾ヶ丸城に向って飛んで行ったとか…。


  (パロディ)  (原稿用紙6枚)



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