雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「葬儀屋の宣伝企画」 

2015-03-15 | ミリ・フィクション
 会社帰りの若いサラリーマン二人が、立ち飲み屋のおでんをつつきながら、仕事の愚痴を溢し合って居た。そろそろ酔がまわってきたのか、取り留めの無い話になってきた。
  「柳瀬君、君は幽霊と親しいのだってね?」
 酔いながらも、柳瀬は驚いた。
  「先輩、変なことを言わないでくださいよ、いきなりなんですか」
  「よく、幽霊を見たと言いふらしているじゃないか」
  「言いふらしてなんかいませんよ」
  「いいふらしているよ、ついこの間も奥六甲山のトンネルの中で見たと言ってたそうじゃないか」
  「ああ、見ましたよ、見たから見たと同輩の木村に言っただけだですよ」
  「木村に話たら、いいふらしたも同じことだよ、あいつの口が軽いのはお前も知っているだろ」
  「それは、ボクの所為じゃないですよ、それで幽霊と親しかったらどうなんですか、別に親しくはないけど…」
  「紹介してもらおうと思ってさ」
  「紹介したら何をするつもりですか」
  「幽霊に、実家の商売の宣伝をしてもらおうと思っているんだ」
  「先輩の実家は、何をやっているのですか?」
  「親父が牧師で、長兄が葬儀屋、次兄が医者だよ」
  「それで、お姉さんが老人ホームの介護師さんなのか?」
  「大当たり!それに、次女が石材店に嫁いでいて、俺はバイトで宣伝企画担当」
  「ふーん、随分都合よく連携しているね」
  「まあね」
  「それで幽霊に宣伝させるって、どんなふうに」
  「幽霊に、もう長くない病人の夢枕に立ち、囁いて貰う」
  「なんて?」
  「葬儀は一番、電話は371059(みなてんごく)、××葬儀店のパーフェクト葬儀」
  「催眠効果による刷り込みかい?」
  「病人は遺書に書くよ、自分の葬儀は、××葬儀店で頼むって」
  「書くかな?」
  「書くさ、その後は噂が噂を読んで、大評判」
  「ところで、そのパーフェクト葬儀って何?」
  「死亡確認から死亡診断書、死体の清拭(せいしき)、葬儀の手配から牧師、墓地、墓石の斡旋まで一貫して引き受ける」
  「ふーん、なるほど、それで幽霊にギャラは支払うの?」
  「もちろんだよ、あの世の沙汰も銭次第って言うだろ」
  「何かゴロが違うみたいだけど、それで、病人の幽霊が天国へ行っちゃったらそれっきりだよ、天国へ行った証拠にはならない」
 そこで先輩、待ってましたとばかりに説明した。
  「送信機の付いた小型カメラを背中に付けてもらい、それの画像をテレビで流す」
  「まるで動物の生態調査ですね」
  「視聴者は天国の実態が見られると興味深々、人類月面到着の実況よりも視聴率が上がるぜ」
  「それで、誰が幽霊の背中にカメラを付けるの?」
  「柳瀬君だよ」 
  「失敗して神様に怒られ、僕も天に召されるかも知れない」
  「その時はセカンドチャレンジだ、幽霊になった柳瀬君の背中にカメラを付けて貰う」
  「断ります」


  (過去に投稿した漫才を、ミリ・フィクションに書き直す)


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