昨日の記事、
「エレノア・オリファントは今日も元気です」
についての追記です。
私が読み間違えていたかもしれないので、それを検証したいと思います。
残念ながら、ネタバレしないと説明できない内容なので、未読の方はそれぞれのご判断でお願いします。
以下、ネタバレ。
最後のどんでん返しというのは、
エレノアが10歳の時に、母が自宅に放火して、4歳の妹と母が死に、エレノアだけが辛くも生き延びた、という事実が明かされることです。
つまり、物語を通して長々と語られた母からの電話、虐待ともとれる母の発言はすべてエレノアの妄想だったというわけ。
このどんでん返しが短いのよ。だから何度か読まないと一体何が起きたのかよくわからない。
エレノアの母(当時29歳)は10歳と4歳の子どもがいる自宅に放火し、逃げる途中で煙を吸い込んで死んだ、という記事が最後の方に載っています。
それまで、些細な日常を細々と延々と描写してきた作者が、一番肝心なところの説明を端折り、読者に放りだしているのです。
ミステリーなら、こういうのもありかもしれないけれど、これはミステリーとして書かれた小説ではない。したがって、読者は混乱します。
物語を通して(425ページ!)こまごまと語られてきた母とのやりとりが全て妄想だった・・
それが明かされるのが、最後のたった数ページ。
衝撃が大きいわりに、エレノアが置かれている状況が今一つ判然としない、というか、読者は置いてけぼりを食らった気分になります。
え、そうなの?
それってどゆこと?
だって、長々とひどい母親に付き合わされてきて、最後の最後に全て妄想だったなんて、受け入れるのは難しい。
これはやはり作者の落ち度と言えるでしょう。
だからこそ、読者評の中で「母との決別が簡単すぎる」といった批評も出てくるのでしょう。
母はとっくの昔に死んでるんだから、その事実をエレノアが受け入れた途端、母が消えるのは当然、なのだけど、それがすごくわかりにくい。
そして、そうであるなら、エレノアのトラウマはカウンセリングによって回復可能かもしれません。
10歳の頃に受けたトラウマがどれだけ激しいものであったにせよ、30歳のエレノアが乗り越えられないはずはない、あるいはエレノアなら乗り越えられるだろう。
だとするなら、昨日書いた「こんなの、嘘じゃん!」は訂正しなくてはいけなくなります。嘘じゃない、あり得ることだよと。
でも、これほど鮮明な妄想がたった数回のカウンセリングで消えるだろうか、という疑問も残ります。
だって、エレノアと母親とのやりとりは、本当に些細なことまで実に詳しく書かれているのだから、それがすべて妄想だとしたら、彼女は精神疾患を患っていてもおかしくない。
だとするなら、エレノアが自分を取り戻すことはそう簡単ではない、と思うのです。
一見、自分を取り戻したかに見えて、またいつか妄想が始まるかもしれない・・
あるいは、ごく単純に考えて、
すべてが上向きになってきたエレノアの人生の中で、彼女の足を引っ張るのが唯一母の存在。
母は死んではいても、彼女の中で生き続けており、母からの電話は、いってみれば彼女自身の自己規制である、という風に解釈すればいいのかもしれません。
そう考えれば、エレノアが母の死を受け入れ前に進んで行くことは十分可能かと思います。
ごちゃごちゃ言わずにさらっと読み流すのがいいのかもしれません。
できれば、私のような理解力の足りない読者にも、わかりやすく書いてほしかったなあ。