ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

シャトーブリアンからの手紙

2016-08-04 19:45:46 | 映画


さて、8月です。
毎年夏になると、必ず戦記物を読む、という友人がいます。
「レイテ戦記」「ルソン戦記」「ノモンハン」「インパール作戦」・・・
彼女がこうした本を読み続けているのは、戦争で亡くなった人たちへの追悼なのだと思います。
戦後生まれの私たちにはどうすることもできない歴史の一コマですが、それでもまだ身近に戦死した人たちの記録や記憶が生々しく残されています。
せめて知ることで少しでも近づくことができれば・・というのが彼女の切実な想いなのでしょう。

毎月友人たちと読書会をやっています。
7月のテーマ本は、
「日本はなぜ『戦争ができる国』になったのか」(矢部宏治著)でした。
戦後の歴史の闇に隠されていた事実を暴きだしていて、非常にエキサイティングな本でした。
同じ著者の「日本はなぜ『基地』と『原発』をやめられないのか」も以前取り上げました。
東京の上空は横田空域といって米軍の管理下にあり、日本の航空機は立ち入ることができないということを初めて知りました。日本は今だに占領下なのですね。
この二冊、未読の方はぜひ。

知らない、ということは大きな罪なのだと本を読むたびに思います。
今のところ、日本には多くの文献があり、本屋で自由に購入でき、図書館で読むことができています。
努力すれば、事実を知ることは可能だし、知ることで世界は広がります。知らないでいることは、選択肢を狭めます。

8月の読書会のテーマはナチスドイツの白バラ運動について各自本を一冊読んでくる、というものです。
まずは映画から入ろうと思い、「白バラの祈り」を探したのですが入手困難のようなので、代わりに(といってはナンですが)
「シャトーブリアンからの手紙」を見ました。
これは「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフ監督作品で2011年に公開されたものです。フランス・ドイツ合作映画です。

第二次大戦中、ドイツ軍に占領されたフランスでの実話です。
シャトーブリアン郡の収容所には政治犯が収容されていました。政治犯といっても、ビラを配った程度の人たちも含まれます。
1941年、ドイツ人将校の暗殺事件が起きました。その報復として、ヒトラーはフランス人150人の銃殺を命令したのです。
たった一人の将校に対して150人!

ドイツ軍司令部の幹部は、フランスのさらなる報復を恐れて減刑を嘆願するのですが、失敗に終わります。そして、他の収容所も含めて48人が銃殺刑になりました。

シャトーブリアン収容所からは27人が銃殺刑に処せられました。
最年少は17歳のギイという少年でした。
これは、処刑された人たちが家族にあてた手紙や様々な文書などを基に、克明に再現された彼らの最期の4日間の記録です。

最期の日に、神父が収容所を訪れ、刑に処せられる人たちから家族へあてた手紙を預かります。その際に神父は、処刑リストをつくった副知事に対して、
「銃殺は暗殺を、暗殺はさらなる銃殺を生み、報復の連鎖にしかならないのだ」と激しく叱責し、ドイツ軍人に「あなたは基督教徒か? あなたは何に従う? 命令の奴隷になるな」と痛烈な非難を浴びせかける場面があります。
しかし、ドイツ軍人は平然としています。
自分はただ命令に従っただけだ、と答えたアイヒマンもそうですが、ドイツの軍人たちは(日本軍の将校たちと同じように)まさに一種の狂気の中にいました。

見ている間じゅう吐き気を感じていました。
涙するというより、吐き気のほうが強かった気がします。
ナチスドイツの非人間性はこれまでもあちこちで語られてきましたが、
見るたびに身の気がよだちます。
人間というのは、何という恐ろしい生き物だろうかと。

けれども、この映画はドイツ人の手によって作られました。
戦後、ドイツではナチスについて徹底した議論をし、二度とあのような悲劇を繰り返さない決意を示し、近隣諸国とも和解し、子どもたちの教育も徹底しているそうです。
一方、日本人はどれほどあの戦争を振り返り、議論してきたでしょうか。二度とあのような悲劇が起きないよう、あらゆることをしてきたでしょうか。
否、といわざるを得ない気がします。

現に、現在の政権の中枢には、こんな人たちがいます。
このたび防衛大臣に任命された稲田朋美氏は「戦争は人間の霊魂進化にとって最高の宗教的行事」と言っていますし、元法務大臣の長勢甚遠氏は、
「国民主権、基本的人権、平和主義」はマッカーサーが押しつけたものだから、これをなくさなければ本当の自主憲法にはならないと公言しています。
(両者ともYOUTUBEで見られます)
とうてい先進国の閣僚とは思えない、恐ろしい発言です。

でも、それを許しているのが、他ならぬ私たち国民一人ひとりなのですね。
流されやすい日本人の国民性も手伝って、また再びの道を歩みだすのではないかと危惧しています。
私たち一人ひとりがしっかりと現実と向き合わないといけない。そのためには、まずは知ることから始めたいと思っています。
コメント
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