夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

言葉のアクセントについて

2009年11月29日 | 言葉
 NHKの「茶道云々」の番組を見ていた。茶道にまつわる様々な文化が紹介されている。何か似たような番組を前に見た覚えがあるのだが、まあいいや。と思って見ていたら、どうもある言葉のアクセントが気になった。「茶入」と「仕覆」である。「ちゃいれ」「しふく」と読む。茶入は抹茶の入れ物で、焼物。濃茶用のお茶を入れる。薄茶用のお茶を入れるのは漆塗りの「棗」(なつめ)で、茶入の方が格が高い。その茶入を保護と美観の用途から入れる袋が仕覆である。古い時代に中国などアジア諸国から伝わった貴重なきれが使われる。
 このどちらも語頭にアクセントがある。それが「茶入」は「茶色」と同じアクセントで「いれ」が高くなっている。「仕覆」は「私服」「私腹」「至福」と同じく「ふく」が高くなっている。私は茶道は専門ではないが、十年以上関連する本の編集に携わって来た。取材をさせてもらう相手はほとんどの場合、家元か家元筋の人々である。そうした人々が、番組のようなアクセントで話すのを聞いた事が無い。
 番組で「仕覆」を作る専門職の人が話しているのを聞いても、ちゃんと「し」にアクセントがある。
 変なアクセントの「茶入」と「仕覆」が何度も何度も出て来るので、もう気になって気になって仕方が無い。私はアクセントに異常に神経質なのだ。馬鹿馬鹿しいが、この性格を直す事が出来ない。なんか、嫌になってしまって、途中で消してしまった。

 こうした番組はもちろんの事、専門家の指導を仰いでいる。そうしたら、物の名前も正確にすべきだろう。相手が「ちゃ」や「し」が高い発音をしているのに、それを無視するなんてとても私には考えられない。もしかしたら、指導者達はみな京都の人々だから、語頭が高いのは京都弁のアクセントであって、標準語は違う、とでも思ったのか。
 念のために「NHK編 発音アクセント辞典」を見たら、「茶入」はあるが、「仕覆」は無い。その「茶入」にしても、普通の家庭で使う「茶入れ」しか載っておらず(表記が違う。茶道では「れ」は送らない)、そのアクセントは「いれ」が高くなっている。つまり、専門用語は載っていないのだ。従って、この番組では、このアクセント辞典を参考にする事は出来ない。
 たとえ、ナレーターが知らないのだとしても、そこにまで気を配るのが、ディレクターの仕事ではないか。無責任である。そしてナレーターはそうした初見の言葉があれば、アクセントを確認するのが責任ある仕事と言える。
 自分の知らない事に取り組む時には、謙虚になって勉強し、相手の知識を吸収しようとするのが当然である。この番組ではナレーターもディレクターもとてもプロとは言えない。そんな人達が寄ってたかって番組を作り、さあ、受信料を支払えと迫る。どこか間違ってはいませんか。

 ついでに。民放もそうだが、教養番組のナレーターの特に女性には、強弱を付け過ぎる人が居る。それが多分、ナレーターの技量の一つだと思うのだろうが、言葉がとても聞き取りにくい。弱い所はほとんど聞き取れない。一生懸命に耳を澄まさないと聞こえないナレーションなんて、神経が疲れるだけで、くそ食らえである。森繁久彌さんのように話芸が巧みなら別だが、ナレーションに演技は要らない。分かり易く語ってくれれば、それで結構。現在の番組では、映像は雄弁とは言えない。ナレーションがあって初めて分かると言う画面などそこいらじゅうにある。テレビはもっとナレーションに気を配るべきである。