金属中毒

心体お金の健康を中心に。
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両王手9

2009-01-17 12:02:13 | コードギアス

両王手9

歴史に残る言葉は第一皇子が知らぬ間に全世界に報道されていた。
数分後、それを知ったオデッセウスはもはや戻る道が無い事を知った。
善良な凡人が追い詰められたとき火事場の馬鹿力を発揮する事がある。このときその典型パターンが現れた。
オデッセウスは皇室専用回線で次々と弟妹達に連絡を取った。彼らの手持ちの軍をまずは味方にしなければならない。
それが、ある一人の弟に繋がったとき核融合反応のように物事は走り出した。
第2皇子シュナイゼル。皇帝の宰相。

「兄上、兄上は世界をどうするおつもりですか」
ルルーシュならばシュナイゼルのこの言葉をいやみや皮肉としか取らなかっただろう。
だが、オデッセウスは真剣に答えた。
「民の幸福を守りたい。だが、私の手に負える範囲までで。世界は大きすぎる。私には父上のようにはなれない」
「よろしいでしょう。私を兄上の、国王陛下の宰相に命じてください」

シュナイゼルが皇帝を裏切り、兄王に付いた。これをどう解釈すべきかについては論議の分かれるところである。
シュナイゼルには皇帝を裏切る動機が無いのだから。シュナイゼルは権力も財力もすでに持っている。利益供与の約束で味方にできる相手ではない。といって兄オデッセウスの人格や才能に惚れて協力したとはまったく考えられない。後に凡庸王と呼ばれるオデッセウスが弟を説得できるとも思えない。唯一ありえるのは父皇帝への反抗だが、それならシュナイゼル自身がトップに立ったほうが良い。現に貴族や高級軍人達は味方に付くよう説得するオデッセウスに対して「シュナイゼル殿下が皇帝になるなら味方するが、あなたがトップでは」と平然と返答している。革命に成功してからオデッセウスは彼らを罰しなかった。
「彼らは本当のことを言っただけだからね。真実を口にしたから罰を受けるような国では誰も本当のことを言ってくれなくなるだろう」



後世の意見だが、シュナイゼルは父皇帝の軍事主義(植民地主義)に限界を見ていたのではないか。植民地政策はコスト的には引き合わないともいわれる。ましてブリタニア本国人が異常なほど生産に携わらず、軍事のみに人材をはじめ国力を傾ける事にはプロの軍人でさえも疑問を抱いていた。繰り返されるエリアの反乱に兵士の死亡率は急速に上がっている。前年統計では22パーセントであった。国を再生産するべき世代が、植民地政策というローラーにかけられつぶされ死んでいく。
皇帝の権力で今はまだ抑えられているが、あと5年もすれば押さえられなくなる。その読みがシュナイゼルにはあった。これは、公式文書から読み取れる。たとえ、父から皇帝位を譲られたとしても、ぼろぼろの国では受け取りたくも無い。そんなとき、凡庸としか形容詞の無い兄が計算外の行動を起こした。ならば火中の栗を兄に拾わせて自分は実質を握ろうか。
そうとでも解釈しなければ、シュナイゼルが兄に付く理由は説明できない。
あるいは悪魔か美しき魔性の者にでも操られたのか。

両王手8 では私が王に成ろう

2009-01-17 00:31:08 | コードギアス
両王手8

では私が王に成ろう




この時期、一番不幸な政治家は誰か?
この質問にはネオウェルズの市長と即答できる。
最強の国の首都のトップになって、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた彼はいきなりのど元に剣を突きつけられた。
「ブリタニアは軍を引け。さもなければ、お前達の首都はトウキョウ疎開と同じ運命を辿る。神船を首都に落す。フレイアと神船とどちらが強いか、試してみる気はあるか?」
脅してきたのは中華の武人にして、黒の騎士団の総司令。
しかも、皇帝は首都を見捨てた。

さらに不幸だったのはそのことが一般市民に知られたこと。ディートハルトの触手はブリタニア本国にも及んでいた。恐怖と混乱を隠せないまま皇帝に直訴する市長の姿と、俗事と言い捨てる皇帝の姿が動画になって、世界中に配信された。
たちまちパニックを起こして逃げ惑う市民。この最初の混乱だけで1千人を超す死傷者が出た。
皇帝に見捨てられても、市長にとって頼れるのは皇族だけだった。これは市長が無能というより、ブリタニアのシステムが皇族中心に造られていたためである。このとき、宰相にして、権力者たる第2皇子は首都にいない。そこで市長は第1皇子に助けを求めた。

無能、無策、無気力などと酷評される第一皇子だが、実のところ凡庸ではあったが無能ではなかった。世界の支配者としては不向きだが、国の象徴としては十分の資格を持っていた。その資格の理由とは「支配者は自分よりも民の幸福や安全を守る」それを体感している事だった。
第一皇子はすぐさま考えた。首都を救うためにどうすべきか。
ゼロとの交渉。あるいは中華との交渉。まずはそれが考えられた。
この時点では通信妨害を受けているためか、神虎との通信はできなかった。
そのため第一皇子は天子に連絡してきた。

「私の名において交渉に応じる。首都上空から神船を引き下げて欲しい」
第一皇子の言葉に答えたのは天子ではなく神楽耶であった。
「あら、お話になりませんわ。あなたには何の権利も力もありませんもの。
お話がそれだけなら、失礼いたしますわ。これから天子様とわが黒の騎士団の団員たちを鼓舞してまいりますの」
そう言うと神楽耶は通信を切るよう指示を出した。といってもその振りをしただけであるが。
「ま、待ってくれ。すでにネオウェルズでは市民達が混乱し死傷者が多数出ている。女性や子供も犠牲になっている」
慌てて、第一皇子が叫ぶ。
「そんなの、だめ。かわいそう」
なみだ目で答えたのは天子。
「まぁ、お気の毒です事。わが日本でも5千万人が犠牲になっておりますのよ。その中に子供がどのくらいいたかお考えになったことはございまして」
第一皇子を見返す黒い瞳には強い光がある。
自分よりはるかに若く、力も経験も無いはずの少女に第一皇子は圧された。しかし、ここは下がれなかった。
彼は、交渉対象を天子に切り替えた。
天子ならば簡単に切り崩せる。それを第一皇子の慢心と呼ぶのは酷だろう。現につい先日までの天子は操り人形に過ぎなかったのだから。
「天子様、どうぞお考えください。もしも神船を本当に落としたらどうなるか」
「そのときにはブリタニアは終わります。世界は救われますわ」神楽耶は答えた。
神楽耶は天子の手をしっかり握る。ここは正念場なのだ。
「中華の歴史に汚点となって残りましょう」
第一皇子が食い下がる。
「英断として伝えられますわ」
天子の手を強く握り神楽耶が言い放つ。

天子の手の震えがそのまま神楽耶に伝わる。
「オデッセウスさま。
わたしはずっと飾りでした。
何も言えなかった。誰も聞いてくれなかった。
でも、星刻がわたしをすくってくれました。
だから、」
だからで天子の言葉は一度止まった。
だから、どう続くのか。さすがの神楽耶も言葉の続きを予測できなかった。
天子は息を吸い込んだ。
「わたしはわたしを守ると言った星刻を信じます。
オデッセウスさまには信じる人はいますか」
この質問は艦橋にいるもの全てと、ブリタニアの全ての市民の意表をついた。
というのもディートハルトは抜け目無くこの会話をほんの少しのタイムラグで中継していたのだ。
タイムラグがあるのは黒の騎士団に不利な言葉を削除するためだが、今のところ全て流されていた。
天子の手の震えは止まっていた。

もし、ブリタニアで第一皇子を見ている者がいれば気が付いただろう。
白い髪の幼い天子の言葉に手を震えさせた第一皇子に。
(いない。わたしには。信じる者が)
(わたしは逃げていた。強い弟と争う事を。責任を取ることを。罪を手にしてなお立つ事を)
幼い天子は星刻を信じると言い切った。それはもし星刻がネオウェルズを壊滅させたとき、その罪を背負うという事。
(私には、いや、まだ遅くない。まだ、こんな私を信じて頼ってくる民がいる)

「では、私が王に成ろう。その上で中華連邦の天子に改めて交渉を申し入れる」
その声に震えも気負いも無かった。

歴史を変える一言はこうして発された。