金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

たんぽぽ

2009-01-31 21:34:44 | コードギアス
洛陽の病院にて


「こんなところにいると自分の体以外への興味を失いそうだな」
外部との連絡や情報から完全に遮断されたことに対しての不満を星刻はそんなふうに皮肉る。
「たまにはお体のことも考えてください。いままでほったらかしていたんですから」
香凜は天子から託されたたんぽぽの花束を花瓶に挿すと、星刻から本を取り上げる。
「おい、まだ途中」
「だめです。お休みにならないと」
星刻の手が本を追うが、香凜はすばやく鍵つきの棚にしまう。

「やっぱりだめね」
香凜は何度も挿しなおしてみるが、たんぽぽは下を向いている。やはり、消毒に耐えられなかったようだ。
「たんぽぽ?」
お見舞いの花としてはあまりふさわしくない選び方である。
一体誰からなのか?
「天子様が、星刻様の一番好きな花だからとご自身で摘まれたのですよ。でも」
消毒に耐えられなかった花はしおれかけている。
星刻自身はまだ知らないが彼は肝臓を移植されている。免疫抑制剤の投与を受けているため、完全消毒されていないものは病室に入れられない。
香凜はたんぽぽを花瓶から抜こうとした。
「待て、そのまま」
星刻が慌てて止める。
「そのまま置いていてくれ」
星刻の視線がたんぽぽに注がれる。
瞳に映るのはしおれたたんぽぽだが、心に映るのは白い綿毛。
たんぽぽは初めてあの方に捧げた花。
あの方の髪と同じ色の綿毛。
あの方のようにやわらかくふわふわした
いとおしい、愛らしい
私の大切な天子様

星刻の心が天子様で満たされてしまったのを確認して香凜は病室を出た。これであの男も数時間はおとなしいだろう。

第9話系のメモ

2009-01-31 10:45:42 | コードギアス

第9話で星刻は蒼天講のメンバーと地下アジトで話しておりました。
「天子様をお救いすべきか、平和のための同盟か」
胃が痛む思いでしょうね。星刻は。でも、独断専行はしないんですね。
そこで、こんなシーンがあの後あったのでは・・・と思いました。


「いずれブリタニアとは共存できなくなるとしても革命の準備ができていない今は早すぎる」
「幸い人質ではなく正婦人としての婚姻だし、天子様の御身に危険はあるまい」
「いや、あのブリタニアのことだ。過去の政略結婚の結果を見ろ」
過去の政略結婚の例は152、そのうちの7割が不可解な死を遂げている。
ひどい例では結婚相手のブリタニア皇子もろとも教会を崩して殺害している。(これは公式には事故扱いだが)

議論百出、けんけんがくがく、地下アジトの温度が上がるほど議論は続いた。皆、他者の意見が正しいとは思えず、さりとて自分の考えが正しいと言い切れない。これでは結論が出るはずが無い。
星刻は口を挟むことなく仲間達の声を聞いていたが、ふと立ち上がると 風に当たってくる そう言い置いて庭に出た。

星刻が居なくなると皆急に黙り込んだ。結局のところ星刻の決断ひとつなのだ。政略、軍略などあらゆることがこの蒼天講は星刻一人にかかっている。規模こそ違えど、黒の騎士団と同じ強みと欠陥を抱えていた。

星刻は庭に出たきり戻ってこない。

「意見は出尽くしたな」
さほど大きい声ではないのに良く通る低音で洪古が言う。
「星刻はどうするつもりだろう」
生まれはいいが軍人としてはいまいちの若者がおずおずと述べる。
「いま必要なのは私情でなく、判断だ」
誰かの声が答えた。
星刻が現状の少女天子を命がけで守ると誓っているのは、当人は隠しているつもりだが、けっこう有名な話だ。
星刻が口を開かないのは、私情で軍略をゆがめてはならないという理性的判断だ。星刻のそういう面を蒼天講のメンバーは高く評価している。
 しかし、仮にここで天子をブリタニアに売ったとして、中華の未来はあるかというと、無いに等しい。
「ふん、八方塞がりとはこういうことか」
皮肉屋がいつもの口調でつぶやく。

洪古は仲間をぐるりと眺めた後、通信機に細工してから外へ出た。
下弦の月を見上げる星刻を見つけた。
「星刻お前はどうする」
「私は、私がおつかえするのは天子様お一人。もしも、あのお方に何かあったら私は彼女を追う」
つまり天子が殺されたら、星刻も自殺するという事。
「中華を捨てるか」
「私にとって国とは天子様のいらっしゃる場所だ。それ以外の意味など」
こんなふうに言うからといって星刻が人民の苦しみを無視しているわけではない。星刻にとって天子様の国の民の苦しみを救うのは当然のことなのだ。
さて、星刻は普段感情を抑制しめったに本音を漏らすことは無かったが、この友人に対しては本心を語った。まさかこの会話が通信機を通じて蒼天講の仲間に筒抜けとまでは気がつかない。


通信機ごしに会話を聞いていた蒼天講のメンバーはいささか微妙な表情だった。まったくなぁとか、オイオイとか、そういう言葉が交わされる。そのものずばりの「ロリコン!」という声が無かったのは遠慮なのか、哀れみなのか。
蒼天講のメンバーには女性もいる。彼女らはため息混じりに「いい男なのに」とつぶやく。
蒼天講の女性メンバーには星刻にあこがれて入った者も多い。この日何人の女性が失恋したか公式記録には無い。

「まぁ、いいか」
ぽそりと誰かの声。
趣味が少しぐらい変わっていても、能力に問題はないし。むしろ趣味や嗜好がやる気の基ならいいことだし。
「かわいいしな、無害だし、あれでいいだろ」
どうせ、誰かを中心に据えるなら、今の天子で問題ない。
いつ決起するとしても完全なタイミングはありえないだろうし。それが今でも問題ないだろ。

「どうせならうんとドラマチックにやりたいわねぇ」
「映画みたいにさ」
一箇所に集まって喋っていた女性たちがなにやら楽しげな歓声をあげた。
星刻が全国放送に見せたキメ台詞。
『我は問う! 天の声、地の叫び、人の心! 何をもってこの婚姻を中華連邦の意思とするか!』
脚本は蒼天講の女性メンバーである。



星刻が部屋に戻ったとき蒼天講のメンバーの意見は、確定していた。即決起しかわゆい天子様を救い正統と正義の旗印とする。人民を搾取する悪しき大宦官を打ち倒す。官軍を人民解放軍としての本来あるべき姿に戻す。


先に部屋に戻っていた洪古に星刻は視線を投げる。
『どうやって説得した?』
『さて、何のことだ』
洪古は知らぬ振りを決め込む。

まさか説得材料に己の個人的感情を暴露されたとは知らず、星刻は地方の同士に指示を飛ばした。
こうして国を憂うる青年達は、私的感情を抱きしめる指揮官の下、革命の朝へと走り出した。





星刻は抜け目が無いようでも、ひょいと洪古さんあたりに引っ掛けられて、本心を漏らしているといいです。蒼天講のメンバーがこの純愛をあったかく見守ってくれていたら嬉しいです。ついでに天子様が16に成ったころに誰かがこの通信の録音を聞かせてくれたらなお嬉しいです。