【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

リモコンキー

2016-01-31 07:37:55 | Weblog

 自動車ではリモコンキーが広く普及しています。これ、キーの先でつっついて塗装にうっかり傷をつけずにすむし、雨の日に荷物を持っていたらドアをすっと開けることができるので快適な気分が味わえます。だったら住宅のキーもリモコンが普及しないものでしょうか。両手に荷物を持っているときなど、とっても気分が楽になるのではないかと思えますし、鍵の変更もコードを変えるだけですみますからお手軽になりません? 二重鍵の片方をリモコンにしたら、現在ピッキングで飯を食っている盗人はハッキングの技術も必要になるから飯が食いにくくなると期待するのですが。

【ただいま読書中】『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン 著、 藤田真利子 訳、 草思社、2004年、2400円(税別)

 「カリオストロ」と言えば私がすぐ思うのは「ルパン三世 カリオストロの城」ですが、ヨーロッパでは毀誉褒貶相半ばするけっこうな有名人のようです。モーツァルトのオペラ「魔笛」ではザラストロとなって登場しているのだそうです。彼の「敵」は、カザノヴァ、ロシア女帝エカテリーナ、ゲーテ、ルイ十六世、マリー・アントワネット、教皇ピウス六世……すごい“メンバー”です。
 シチリア島パレルモの貧民街で育ったジュゼッペ・パルサモは町で評判のゴロツキでしたが、創造的な才能と人に逆らう性格から成り立っていました。修道院では薬剤師の見習いをして錬金術の知識を仕入れ、立派な山師になります。若く美しい妻セラフィーナの体をエサに上流階級の方々とお近づきになって怪しげな話を持ちかけ、成功したり失敗したりを繰り返します。その中にはカザノヴァもいました。だんだん大物(の山師)になって、ペレグリーニ伯爵とカリオストロ伯爵の名前を使い分けるようになります。そしてフリーメイソンに入会します。大出世です。
 しかしこれは危険な道でもありました。詐欺の被害者がヨーロッパ各地で「カリオストロ(またはペレグリーニ)」に復讐を誓っています。そして宗教裁判所は、魔術師とフリーメイソンを敵視していました。そしてカリオストロは“すべての条件”を満たしていたのです。しかしカリオストロは降霊術師としての腕を存分にふるい、自信たっぷりにサンクトペテルブルグを目指します。標的は女帝エカテリーナ。しかし彼女は、神秘主義よりは合理主義を愛し、さらに、外国と繋がりがあるフリーメイソンの活動に警戒をしていました。そこでカリオストロが活路を見いだしたのが、医療でした。治療者として(もしかしたら本人も意外だったかもしれませんが)抜群の腕の冴えを見せたのです。
 ポーランドはカリオストロ夫妻を歓迎しました。カリオストロは、予言と医療をのびのびと行います。そして錬金術で、銀や金を「生成」してみせますが、その手品の手口を見破られてしまいます。シャーマンとしての活動だけで満足していたら良かったのにね。
 そして有名な「ダイヤの首飾り事件」が発生します。女山師のジャンヌ・ド・ヴァロワ・ド・ラ・モット伯爵夫人が、マリー・アントワネットの名を騙ってロアン枢機卿をたぶらかして高価なダイヤの首飾りを詐称した事件ですが、そこにカリオストロが巻き込まれたのです。民衆は熱狂します。しかし、王家がらみのスキャンダルが堂々と論じられる(庶民の楽しみになる)のは、絶対王制の世界では本来考えられないことです。革命の足音は少しずつ近づいているようです。そして著者は皮肉な筆致でこの章を終えます。「最も高い対価を払ったのは結局はマリー=アントワネットだった。威厳をなくし、ダイヤの首飾りをなくし──そして、最終的には首をなくしたのだから。」
 国外追放されたカリオストロはイギリスに渡ります。王に対する反抗期の王子たちがフリーメイソンびいきとなっていて、ブルボン派と反ブルボン派が暗闘を繰り広げ、ややこしい状況ではありますが、とりあえずカリオストロは大歓迎をされます。しかしその陰で敵たちは動きを強めていました。スイス、イタリアと安住の地を求めるかのようにカリオストロ夫妻は移動を続けます。そしてついに異端審問が。
 本書は「カリオストロ伯爵」の物語ですが、同時にその妻である「伯爵夫人」の物語でもあります。14歳で恋に落ちて結婚をしたら、夫のために他の男に体を許すのは罪ではない、と説得された女性の哀れでしたたかな物語です。それにしても、フランス革命前夜のヨーロッパを背景として、そのヨーロッパ全体を舞台として「大きな演技」を行い続けた男は、その才能をもうちょっと真っ当な方向に使っていたら(本人もその周囲の人間も)もっと豊かな人生が送れたのではないか、と少し残念な気がします。



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