【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ニトログリセリン

2010-11-20 18:45:53 | Weblog
昔々、どの医療漫画だったかな、何かを爆破しなくちゃいけなくなって、狭心症の患者が持っていたニトログリセリンの錠剤を集めてどかん、という話がありました。無茶です。たしかにニトログリセリンは火薬ですが、錠剤に含まれているのは1mgに満たない量。それで何かを爆破するくらいなら、脱脂綿から綿火薬を作る方がまだ実用的に思えます。
狭心症患者が持っている「ニトロ錠」の成分が“あの”ニトログリセリンと同じものと気づいてその漫画家が嬉しかったのは、わからないではないですが。

【ただいま読書中】『火薬が心臓を救う ──ニトログリセリン不思議ものがたり』吉田信弘・大西正夫 著、 ダイヤモンド社、1990年、1456円(税別)

1768年イギリスの医師ウィリアム・ヘバーデンは「狭心症」という病気が存在することを報告しました。(ちなみに、日本の『解體新書』は1774年です) 病気の本体は冠動脈の狭窄(ほとんどは動脈硬化によるもの)ですが、へバーデンの時代にはまだ治療法はありませんでした。胸痛を取り除くために、ブランデー・エーテル・アンモニアなどが用いられましたが、もちろん無効。唯一効果があったのが瀉血でした。1867年イギリスの医師トーマス・ブラントンが「狭心症に亜硝酸アミルが有効」と報告して初めて有効な薬剤が使えるようになります。ブラントンは「瀉血が効くのは血圧が下がるからだろう。だったら血圧を下げる作用がある亜硝酸アミルも効かないだろうか」という発想で患者に試してみたのでした。1847年に合成されたニトログリセリンをなめた人が亜硝酸アミルと同様の症状を示したことから、イギリスの医師ウィリアム・ミューレルは人体に試してみて狭心症の治療に有効と1879年に報告します。火薬庫の労働者が狭心症が治った、とかではなかったんですね。
心臓の解剖・生理・血液循環などを簡単に解説した後、話は動脈硬化に。本書出版当時はまだ「メタボ」は存在しなかったのですが、それにつながる話は当然出てきます(というか、「メタボ」が問題なのは動脈硬化になるから、って、世間に広く知られていましたっけ?)。
火薬の歴史を見ると、意外に医薬と関係があります。黒色火薬の成分、硝石(硝酸カリウム)・硫黄・木炭は、古代中国ではそれぞれ医薬品でした。さらに黒色火薬そのものが『本草綱目』では、たむし・水虫・ペストの治療薬として書かれているそうです。そしてその火薬がアラビアに伝わり、そこからヨーロッパに伝わりました(もっともヨーロッパでは火薬は「自分たちが発明した」ことになっているようですけれど)。
もちろんニトログリセリンは、医薬品としての顔だけではなくて火薬としての顔を持っています。そこで本書では「火薬」についても詳しく述べられています。日本海海戦を「火薬(の差)」で見る視点は私には新鮮でしたし、ダイナマイトを持ったら柔らかかったという話も実感があります。医薬品と火薬と、ちょっと分裂気味の本ですが、暇なときに読むと楽しく時間つぶしができます。



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