【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

出る見る止まる/『腹話術入門』

2009-05-18 18:31:07 | Weblog
 歩行者でも自転車でも二輪でも自動車でも、「出る見る止まる」の人がいます。まず出て、そこで見て危険に気づき、そこで止まってしまう(ほとんどは道路上の危険なところで)。これを逆にして「止まる見る出る」にしたら、安全なところで止まってそれから自分が行きたい方向の安全を確認し、そして行きたい方に向かって動き出すわけで、少なくとも事故の危険性はがくんと減ります。
 ああいった人にとって、「自分の命や他人の命を危険にさらすこと」と「1秒を無駄にしないこと」とは等価ということなんでしょうか。ずいぶん価値ある1秒だこと。

【ただいま読書中】
腹話術入門』花丘奈果 著、 鳥影社、2005年、1800円(税別)

 子ども時代、腹話術は不思議でした。明らかに一人二役なのに、どう見ても「人形がしゃべっている」。本書は現役の腹話術師が、腹話術について存分に語った本です。
 口の形の基本は「イ」。微笑んだ形に顔の表情を固定させて人形の言うことに耳を傾けている、という形で、唇を動かさず歯の隙間から息を出しながら、口の中で舌を大活躍させて喋っているのだそうです。これでほとんどの音は出せますが、難しいのがマ行パ行バ行の動唇音(上下の唇を一度合わせて閉じる必要がある音)。そこでなるべく言葉を言いかえること(「むすめさん」→「おじょうさん」、「びんぼう」→「おかねないこと」、など)で動唇音を使わないようにするのだそうです。これは台本を練るのが大変ですねえ。それでもどうしても動唇音を使わなければならないときもあります。そんなときは似ている音で代用(「こまった」→「こなった」、「ばなな」→「がなな」、「パイナップル」→「かいなっぷる」、など)。さらに、動唇音で唇を閉じるかわりに、上前歯と舌を使って唇を動かさずに発声するテクニックがあるそうです。これは難しい。ちょっとやってみましたが「音」になりません。
 人形の使い方も重要です。口の開け方、視線の向き、体の向き(人間と人形と、それぞれ)……いやあ、さすがプロ、ここまで考えて演技しているんですねえ。

 著者が腹話術を始めたのは、本当は漫才がしたかったのに相方が見つからなかったからだそうです。ということは、漫才でも片方が人形になって……というのはすでにありそうな気がしてきました。でもやり方によっては本当に受けそうな気がします。いっこく堂がやるような、口の動きと発声がずれて見えるのを、漫才コンビがそれぞれやってみせて、結局誰が誰を演じているのかわからなくなるような混乱芸など、見てみたいな。

 本書の後半は台本集となっています。それも初歩の練習用から公演用のものまで。
 そして最後の章は「靴下人形」。普通の靴下を改造して腹話術の人形にしてしまうのです。これだったら腹話術師志願者は自宅ですぐに練習が始められます。口がぱくぱくすればいいので、鍋つかみでも牛乳パックでも作れるそうです。
 ……腹話術ではありませんが、なんだか急にパペットマペットを見たくなりました。

 本書はあくまで腹話術の入り口で『腹話術入門〈上級編〉』に続くそうです。商売上手やねえ。




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