【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

奴隷解放/『大統領になりそこなった男たち』

2008-11-10 18:48:44 | Weblog
 もう死語ですが「終身雇用」という言葉がかつて日本にありました。その頃アメリカでは「レイオフ」が大流行で、「あんなことをやっているから優秀な従業員が育たないんだ。その点日本は……」と胸を張って「じゃぱんあずなんばーわん」と言っている人もいました。その割には、今の日本の労働環境は、何なんですかねえ。
 『大統領になりそこなった男たち』に「固定コストがかかる奴隷ではなくて、流動性のある(必要な時には雇えて、好きな時に首を切れる)労働力が求められた」という意味の記述があって、もしかしたらそれは現在の日本にも言えることなのか、と思いました。終身雇用と家族などの生活保障のひきかえに、サービス残業を厭わず企業に忠誠心を抱いて過労死するまで働く労働者は、「奴隷」と同等の存在と言えるでしょう。しかし今の日本では「奴隷」を維持することもきつくなって、非正規雇用でなんとか生き延びなければならなくなっている。
 平成の日本は後世「奴隷解放の時代」として知られるようになるのかもしれません。

【ただいま読書中】
大統領になりそこなった男たち』内藤陽介 著、 中公新書ラクレ290、2008年、760円(税別)

 『ローマ人の物語』で塩野七生さんは「コインに刻印された皇帝の肖像は、メディアとして機能した」と述べました。本書の著者も「切手は国家的メディアだ」という発想から数々の著作をものされていますが、本書ではちょいとひねって「紙幣の肖像」から話が始まっています。米ドル紙幣とその肖像は……1ドル/ジョージ・ワシントン(初代大統領)、2ドル/トマス・ジェファーソン(第3代)、5ドル/エイブラハム・リンカーン(第16代)、10ドル/アレクサンダー・ハミルトン、20ドル/アンドリュー・ジャクソン(第7代)、50ドル/ユリシーズ・グラント(第18代)、100ドル/ベンジャミン・フランクリン……おやあ、大統領ではない人が二人混じっています。さて、これは……

 発想が面白いですね。「切手は歴史の窓口」という発想そのものがユニークなのに、さらに本書では「歴史は勝者が書くもの」をひっくり返して「敗者」の側から歴史を見るわけですから。それは、切手が常に歴史に寄り添っているのに、切手だけを集積したらそこにはまた独自の「歴史」が生まれるからこそこのような仕事ができるわけです。同じ切手(のコレクション)を見ても、何も見えない(せいぜい値段のことしか言えない)人もいれば、このように「独自の歴史物語」を読み解く人もいる。そのおかげで私は楽しい本が読めるわけで、ありがたいことです。

 本書には8人の「男たち」が取り上げられています。通して読むだけで、アメリカ通史(の一面)を知ることができますが、さて、この中で何人のことを「知っている」と言えるかな? それは本書を読んでのお楽しみです。
 各人のエピソードももちろんですが、米英戦争のことやホイッグ党がアメリカにもあったこと、さらに南北戦争で奴隷州でも南部ではなくて連邦側に属した州があったのを知ることができたのが個人的な“収穫”でした。(私は世界史にはヨワイのです)

 今年の米大統領選で破れた人たち(マケインさんをはじめとする両党の候補者たち)も切手になっているのかこれからなるのかはわかりませんが、ふっとヒラリー・クリントンさんのことが気になりました。彼女を取り上げるとしたら「大統領になりそこなった女」ですが、USAでは「たち」にできませんね。いっそ視野を世界に広げたら、各国から「大統領(国家元首)になりそこなった女たち」が集められるかもしれません。私個人の好みだと、そのトップバッターはエバ・ペロンですが、さて、彼女は切手になっていたのかな?



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