【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

剣道

2009-08-27 18:47:37 | Weblog
 私の高校では、冬の男子の体育は、柔道か剣道からの選択でした。私は剣道を選択しましたが、それで張りきったのが父親。自称二段が竹刀の手入れから素振りのしかたから、いろいろ教えてくれました。そのせいか、授業での試合ではけっこう上位にいけました。驚いたのは剣道部の人間との対戦で一本を取ってしまったこと。試合開始直後に小手を抜いて面を打ったらみごとに当たってしまって、その瞬間打った方も打たれた方も「まさか」と固まってしまいました。剣道部員が素人に負けるわけにはいかない、と彼も必死になってしまい、こちらはぼこぼこに打たれて結局負けましたが、それでも一本取ったことは間違いないわけです。もしかしたらその方面の才能があったのかなあ。

【ただいま読書中】
剣道を知る事典』日本武道学会剣道専門分科会 編、東京堂出版、2009年、2500円(税別)

 本書は事典です。「稽古」「技術」「試合」「審査」「生涯剣道」「施設・用具」「普及発展」「現代剣道への架け橋」の各章ごとに様々な項目が見開き二ページにコンパクトにまとめられて解説されています。
 たとえば「稽古」の「1)剣道の稽古とは」には、「稽古」とは「古(いにしえ)を稽(かんがえ)る」ことで、宮本武蔵は「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」と述べている、とあります。私が以前から不思議に思っていた「発声」についても「技術」の「8)掛け声(発声)」の項目があります。これまた『五輪書』の「火の巻」の「三つの声といふ事」という記述にまで遡れるそうで、その内の一つは「打つと見せて、かしらよりえいと声をかけ、声の跡より太刀を打ち出すもの也」……これって、フェイント? 現代では、試合規則には掛け声(発声)は明記されていませんが、「剣道試合・審判・運営要領の手引き」には有効打突の理合の要件として「気勢(発声)」が記されているそうです。だから高校の時の剣道部員たちは、打突の形だけではなくて発声にもそれぞれ拘っていたんだな。
 剣道と宗教や文化との関りも興味深いものです。「剣禅一如」と言いますが、平和な時代の武道の根本思想としての禅がいかに重要なものか、それは当時の人の気持ちにならないとなかなかわからないものなのかもしれません。
 江戸時代には庶民もけっこう気楽に剣道を学んでおり、「剣道」と「武士道」とを結びつけたのは明治政府、というのは意外でした。本書ではそういった安易な結びつけに対しては否定的で、「武士道をこえた武道・剣道の思想的基盤を確立しそれが広く世界に認められるように努力する必要があろう」と述べられています。内向きの階級意識よりももっとグローバルな心を持とう、ということでしょうか。
 江戸時代には様々な流派が生まれ、他流試合も盛んに行なわれました。その流れの中で竹刀が少しずつ長くなり、とうとう四尺八寸の「長竹刀」が登場したのには笑ってしまいます。いや、長い方が有利なのはわかりますが、竹刀ではなくて真剣だったらそんな長いのは振れないでしょう?(ちなみに幕府は1856年(安政三年)に武術教育機関として講武所を設け、型稽古や流派の違いを廃して「竹刀打ち込み試合稽古」のみとし、竹刀の長さも三尺八寸と定めています)

 剣道に興味がまったくないひとには用がない本で、剣道に詳しい人にはちょっともの足らない内容、ということで誰がメインターゲットなのかよくわかりませんが(ならばなんで私がこんな本を読んでいるんだろう、ということになってしまいますが)、とりあえず剣道のことをちょこっと調べたいときには便利な本です。巻末には、年表・試合規則・全日本選手権大会の入賞者一覧などがあって、データブックとしても使えます。



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