「○○なんか役に立たない」と平気で言えるのは、たしかに「○○」が無用の長物である可能性もありますが、その人が単に「○○」を使う機会に恵まれていないだけか、それを役立てることができるほどその人の技倆がまだ上達していないからかもしれません。
【ただいま読書中】『誰かに教えたくなる「社名」の由来』本間之英 著、 講談社(+α文庫)、2007年、648円(税別)
有名企業の中から、その社名の由来が面白いものを選択してまとめた本だそうです。ですから「創業者の名前」そのものというのは省かれています。
と言いつつ、トップバッターが「トヨタ自動車」。おいおい、と言いたくなります。創業者は豊田佐吉さんでしょ、と。ところが話はそう簡単ではありません。トヨタ自動車は「豊田自動織機製作所」の自動車部門が昭和12年に独立したものですが、そのときに「人名の豊田」から離れるためにわざわざ「カタカナ」を採用しました。しかもそのときに「とよだ」の濁点を取って「とよた」としたのです。その前にすでに乗用車「トヨダ号」は商標が登録されていましたが、社名が「トヨタ」になったものですから商品も急遽「トヨタ号」に変更されたそうです。
日産はあまり面白い話ではありません。マツダは……これまた創業者の松田重次郎からですが、これはちょっと面白い。テレビCMで「マヅダ」と発音していることから知られるようになりましたが、この社名は古代オリエント文明の最高神「アフラ・マズダー(Ahura-Mazda)」も指しているのです。
ヤン坊・マー坊で知られる「ヤンマー」は、最初「トンボ」になるはずでした。しかしすでに他のメーカーが使用していたため「トンボの親玉、ヤンマ」になったのだそうです。同様に他社が「シスター」を登録済みだったため「ブラザー」が生まれました。「シャープ」は、初めての製品が「シャープペンシル」だったから。「富士通」の「富士」は富士山とは無関係で、古河電気工業とジーメンス社が大正12年に提携する時にその頭の一字ずつを取った「フジ」を使って「富士電機製造」を設立したことがそのおこり。
東レは三井物産の事業部が分離独立して発足しましたが、ではなぜ「三井レーヨン」と名乗れないのかというと、三井財閥には、中核企業は「三井○○」、そこから生まれた企業(三井の“子”)は「東洋○○」、そこからさらに生まれた企業(三井の“孫”)は「日本○○」という社名にする、という命名ルールがあったのです。「三井」は「日本」や「東洋」よりも上だったようです。
「地場産業の核になろう」という創業者の思いから「国是」ではなくて「グンゼ(=郡是)」になった企業もあります。
創業者・重光武雄が愛読した『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ)に登場する美しいヒロインの名前(シャルロッテ(愛称はロッテ))から命名されたのがロッテ。『小僧の神様』(志賀直哉)から「小僧寿し」。
オムロンは御室(仁和寺の別名)のもじり。キヤノンは「くわんのん(観音)」→「KWANON」→「CANON」。
創業者の鈴木清一は「(株)ぞうきん」と命名したかったのに社員たちの抵抗で、「(ダスト+ぞうきん)÷2」で「ダスキン」になった、という面白い由来もあります。
「名は体を表す」と言いますが、企業の名前は「体」だけではなくて「思い」も表しているようです。その思いをきちんと社会の中で実現しているかどうかで、その企業の商品を購入するかどうかを決めるのも、面白い消費者行動になるかもしれません。
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